第11章 【第七講 後半】酸いも甘いも苦いも辛いも青春の一ページ
顔を○○に向け、土方は硬直した。
○○も土方の方に顔を向けていたため、目の前に○○の顔があった。
新幹線の座席はピタリとくっ付いている。近い。あまりにも近い。
○○は土方を見つめたまま動かない。
トクトクトクと、土方の鼓動は高鳴る。
○○の顔が近づく。
「な、なん……」
○○の右人差し指が、土方の左耳の下を指し示す。
「ここ、白粉。残ってる」
昨夜、大暴れした彼等は銀魂高校の生徒だとバレないように、舞妓に変装した。
その名残り。
「そこらへん、自分だと意外と気づかなんだよね。しっかりこすらないと落ちないし」
○○は喋りながらウェットティッシュを取り出している。
「はい」
土方に差し出すが、彼は受け取る素振りを見せない。
「ん? はいってば」
「あ? あ、ああ……」
土方は慌てて手を出し、ウェットティッシュを受け取った。
自らの手で、ゴシゴシと白粉を拭う。
ニヤリと、沖田の口元が微かに動いていることには誰も気づいていない。
彼は寝ていなかった。狸寝入りをしているだけだった。
アイマスクに描かれた目には穴が開いており、周りの様子が見えている。
○○が差し出したウェットティッシュ。
拭き取ってくれるのかと勘違いし、土方が待っていた様子も、バッチリ目撃していた。
「ババ抜きでもやる?」
「やんねーよ! 俺ァ、一服してくる!」
「何、平然とポケットからマヨネーズ覗かせてんの」
立ち上がった土方の尻ポケットには、白いチューブが刺さっていた。
「あーよく寝た。そろそろ東京か?」
「あ、沖田くん、起きたんだ。東京はまだまだだよ。ババ抜きでもやる?」
それぞれの思い出を乗せ、銀魂高校御一行は京の街を後にする。
【第八講】へ続く→