第11章 【第七講 後半】酸いも甘いも苦いも辛いも青春の一ページ
「寺が先に決まってんだろ」
「俺は腹が減っている。飯が先だ」
バチバチと、土方と桂の間で火花が飛ぶ。
「寺は拝観時間が決まってんだぞ。終まっちまったら、元も子もねェ」
「人間の資本は食だ。空腹で拝観などしても、脳が働かず身につくものも身につかん」
どちらも決して折れる様子がない。
「こうして言い争っている時間が一番無駄なんだが……」
眉間に皺を寄せつつ、近藤はどうしたものかと思案する。
「□□、どうにかしてくれよ。□□……? 総悟?」
○○なら土方と桂を止められるだろうと助けを求めるが、○○の姿がない。
沖田までもが姿を消していた。
「おーい、□□! 総悟! どこだ!!」
声を上げ、近藤は○○と沖田に呼びかける。
土方と桂も、二人が消えていることに気づいた。
「どこに行っちまったんだ?」
返事がないため、今度は携帯電話を取り出した。
発信ボタンを押すと、沖田はすぐに電話に出た。
「勝手にいなくなるなよ。□□も一緒にいるのか?」
――一緒ですよ。目の前にいますよ。ここです、ここ。
「ここ……?」
キョロキョロと、近藤は周囲を見回した。
同じように、桂と土方も辺りに目を配る。
「あ!」
近藤が声を上げた。
ガラスの向こうから、沖田がヒラヒラと手を振っていた。
向かいには○○が座り、モグモグと何かを頬張っている。
沖田は電話を切ると、○○と向き合った。
――俺にも一口くれよ。
――自分で頼めばいいでしょ。
――一口でいいんだよ。
――仕方ないなァ。口開けて。
――アーン。
なんていうやり取りが、土方と桂の脳裏に浮かぶ。
実際にはそんなことは行われてない。
土方と桂は先を競うようにカフェへと駆けた。