第8章 【第七訓】原作第十九訓と第二十訓の間の話
「さてと……」
○○は再び万事屋の前に立っていた。
扉の前で気合を入れる。再び、あの銀髪男に挑まねばならない。
指に力を込め、チャイムを鳴らす。気合とは裏腹に、ピンポーンと、それは間の抜けた音を奏でる。
「はーい」
中から聞こえた声も、これまた緊張感に欠けた、間の抜けた声だった。
「○○さん!」
「こんにちは、新八君。銀さん、いる?」
「すいません。ちょっと出掛けてまして。また上がって待っていて下さい」
新八は家の中を示し、○○を促した。
先日のように新八の後ろを歩き、○○はリビングへと向かった。
その背中は、○○に対して名字で呼ばない優しさを見せていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
前のように新八が用意してくれた茶を飲みながら談笑し、二人は銀時の帰りを待つ。
途中、席を立った○○は木刀を手にして戻って来た。
「どこにあったんですか、そんなもの……」
柄には『洞爺湖』と書かれており、間違いなく銀時のものだ。
「そこの部屋」
○○は玄関の方を指さした。
玄関を入ってすぐ右手に、三畳程の小さな部屋がある。
物置として使われているのか、そこは物で溢れている。
その部屋の入り口に、この木刀は立てかけられていた。
「使い古しみたいですね」
○○が持って来た木刀には、真ん中に黒いシミが広範囲で広がっている。
木刀を横に置き、もう一度腰を下ろすと、○○は茶を啜った。
「なんでこんなもの持って来たんですか」
「んー、保険?」
「保険?」
新八はいぶかしげな顔をする。