第16章 この話はもう終わり《前編》◉山田ひざし
我ながら上出来な英単語テスト、音を立てたコピー機が規則的に白い紙を積み上げていく
どうせ今日もまともに寝てねェんだろう、疲れの漂う猫背をチラリと見遣ると、オレは時間潰しを装って言葉を投げた
「オマエさ、めぐちゃんの事どう思う?」
「あ・・?誰だそれ」
「サイッテー」
よほど呆れた顔をしていたのだろう、眉を顰めた相澤は数秒考えると「ああ、薬師さんの事か」と呟いた
興味の無さそうな声色にほっとした心、それを悟られないようにと目線をコピー機に戻して軽く口笛を吹く
「可っ愛いよなァ、めぐちゃん」
「下の名前で呼ぶな、ややこしい」
じろりと此方を睨んだ相澤はすぐに目線を画面に戻すとカタカタとキーボードを打つ音がする
不意にその手が止まると、前を向いたまま小さな呟きが聞こえた
「・・そういや、昔猫を飼っていたらしい」
「・・・っはぁ〜〜」
オマエ頭ん中ソレしかねェのかよ!?、口に出さずとも伝わるように表情に出すと、心底面倒臭さそうに相澤が溜息をついた
「言いたい事があるなら言え、気持ち悪い」
「いーや別に?ただオマエに合うんじゃねェかと思っただけ」
こんなヤツの何処がいいんだか、心の中で思いっきり吐き捨てたその悪態を溜息に変える
ディスプレイを凝視していたその目が訝しげにこちらを睨んだ
「馬鹿言え、新手の皮肉か」
「ハァン?」
「合うのはお前だろ、どう見ても」
お前と居る時はよく笑ってる、面倒臭さそうに発されたその言葉に自分の眉根が寄るのが分かる
そりゃオマエの話してっからだよ、なんて暴露するわけにも行かずオレは顳顬を押さえるとよろりと歩き出した
よく笑ってる、ね
世界中に届いちまえとばかりに吐き出した大きな溜息、目的もなく肌寒い廊下に足を踏み出して
「・・笑った顔かーわいいんだぜ、知らねえだろうケド」
気を抜くと上がってしまいそうになる口角を意識的に下げて眉間に皺を寄せる
彼女の身になれば嬉しくもなんともねェんだからよ、と窓ガラスに映る自身をこれでもかと睨みつけた