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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第12章 お決まりでしょうか◉共通ルート《前編》


重低音を響かせ高速を走る車内、ちらりと盗み見た運転席の彼は機嫌が良さそうに前を見据えている


「素敵な車だね、」

落ち着かない胸の音を隠したくて発した声は車内の静寂へと消えて、音楽でもかけてくれたらいいのにと祈った


「お前を乗せる為に買った」

「へ」

「気に入ったかよ」


「もう、嘘つかないで・・!」

「気に入らねェなら買い替える」

こちらを見た爆豪くんは楽しげに口角を上げて
高速を降り真っ直ぐに向かった私の住むアパート、彼は静かに車を停めた


「・・アイツが好きか」

射抜くような視線に囚われて、私はさっと目を伏せる
呆れたように笑みを溢した爆豪くんが、するりと私の髪を撫でた


「お前は、お前の好きな奴と居りゃいい」

そう言って笑う彼の瞳が真剣な光を宿して、私はなんだか泣いてしまいそうになる


「お前が笑ってねェと本末転倒だろが」

一瞬苦しげに下がったその眉、背中に添えられた大きな手があまりにも優しくて鼻の奥がつんとする
込み上げるそれを我慢すると、こぼれたひと粒を温かい指が拭った

「ッハ、情けねェ顔」

「私、爆豪くんが意外に優しいの、知ってた」

油断するとまた溢れてしまいそうで、きゅっと唇を噛み締める
顔を上げると、じわりと赤く染まった彼の耳が見えた

「お前だから優しくしてンだよ、クソ」

膝の上で握りしめた両手に、彼の温もりが重なる
甘い手付きに身体中が熱を持って、それを待っていたかのように唇に彼の視線を感じるのはきっと勘違いじゃない


「ま、ぜってぇモノにするけどな」

「ふふ、矛盾してるよ」

「るせェ」

ゆっくりと縮まる距離、それでも動けない私はやっぱり狡くて最低だ
革のシートがギシッと立てる音にも気付かないフリをして、息を止めていないと彼の甘い香りにくらくらしてしまうから、



「あーー、してェ」

肩に回された手がぐっと拳を握ると彼は苦しそうに悪態をついて
暗闇の中で光る赤色はまるで宝石のように綺麗だと思った

「お前が良いって言うまで、しねェけどよ」

「爆豪、くん」

「・・他に呼び方ねェのかよ」

「か、かっちゃん、?」

「ふは」

悪くねェな、そう呟いた彼が長めの息を吐くと鍵の開く音が車内に響いて

「喰われたくなかったら帰って早よ寝ろ」

そう言って顔を顰めた彼はハンドルにゴツンと額を落とした
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