第12章 お決まりでしょうか◉共通ルート《前編》
繁華街から少し離れた住宅地、人通りの少ない道に私の靴音だけが響いている
学校近くのいつものお店じゃないのは、何か理由があるのだろうか
新しい業務にも少しは慣れたと思いたいなぁ、
なんて、リカバリーガールの厳しくも優しい指導を思い出しながら私はそこで歩みを止めた
「ここで合ってるよね、よし」
控えめで上品な暖簾が揺れるその場所、目的地に辿り着いたことを確認しスマホを鞄に仕舞う
手を掛ける前にゆっくりと開いた引き戸から和服の女性が穏やかに微笑んで、私は咄嗟に会釈をした
「薬師さん!こっちこっち!」
店員さんに導かれお店の奥へと進んだ私に掛けられたのは、緑谷くんの、いや緑谷先生の爽やかな声
昼間と変わらず眩しいその声は、高級感漂う座敷席の薄暗さに全く馴染んでいなくて思わず笑ってしまう
「めぐちゃーん!久々やねぇ!」
大きく手を振るお茶子ちゃんの指にはキラリと光るものがあって、卒業して八年、私たちがもう高校生ではないことを再認識する思いがした
「お待たせしちゃってごめんね!・・って、え!?」
「久しぶりだな、薬師」
個室に足を踏み入れると奥から聞こえた涼やかな声に、私は大きく目を見開く
今回のチャートで華々しくNo.2を飾った轟くんが優しく目を細めて私を見上げていた
「轟くん!?な、なんで・・!」
その活躍をテレビで見ない日は無いと断言できる、今一番多忙な彼がその向かいの席を私に促して
「薬師が雄英の保健医になったって緑谷から聞いたんだ」
お祝いしないとな、そう言って軽く掲げたグラスは烏龍茶で満たされている
その言葉にじんわりと心が温かくなり目を伏せたのも束の間、
落とした視線の先で私を見上げていたのは炭酸飲料の入ったグラスを傾ける爆豪くんだった
「いつまで突っ立っとんだ」
ほっこりとした雰囲気の中、目を吊り上げた彼がバンバンと音を立てながら自らの隣を叩いて
私は驚きのあまり鞄を落としそうになる
「爆豪くんまで来てくれたの・・!?」
「ああ、俺が誘ったんだ」
轟くんの凛としたその声を遮るように、バンバンと叩かれ続けている彼の横がきっと私の席なのだろう
爆豪くんと壁の間に縮こまった私を見て、彼は満足そうに和紙に書かれたメニューを開いた