第2章 夜を忍ぶ
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たくさん汗をかいた佐助君の体を拭き、着替えを手伝い(なるべく見ないように努力した)、水を飲ませてから身支度を整える。
「佐助君、明るくなったらまた来るからね」
未だ意識がない佐助君に挨拶してから、戸口で待っていた謙信様へ歩み寄った。
謙信「来る時と一緒で、口はきくな」
「……」
コクンと頷く。
謙信様は目元しか見えない忍びの姿に戻っていたけれど、何やら楽し気だ。
謙信「来る時も思ったが、なかなか筋が良い。佐助とともに忍びになるか?」
(え?私が?)
とてもじゃないけれども、こういのは今夜だけにして欲しい。
心臓がいくつあっても足りない。
首を大きく横に振ってお断りする。
謙信様は目元を和らげ私の頭に手をぽんとのせた。
謙信「冗談だ。お前は佐助に守れていろ。
今夜は俺が守ってやる、行くぞ」
そこからはひたすら来た道を戻った。
時間も時間のため、来た時よりもすんなりと城へたどり着くことができた。
苦労したのは天井裏が本当に真っ暗で何も見えなかったことだった。
お城を出る時はまだ起きていた人達が居て、部屋の明かりが天井裏にわずかに漏れていた。
しかし夜明けを迎える時間帯に起きている人は居ない。
目の前に居るはずの謙信様さえ見えない。
それでも謙信様が巧みに誘導してくれて、なんとか自分の部屋までたどり着くことができた。
(すごい疲れた!っていうか、なんで真っ暗なのに謙信様は平気なの?)
浮遊感の後に、謙信様の足が畳についたのを感じた。
担がれた状態で布団に運ばれ、静かに降ろされる。
(さっき、ここで謙信様と解熱剤の話をしたのが遠い昔に感じる…)
疲れ切って地下足袋を脱いでいると、謙信様が身を寄せてきた。
(な、なに?)
三成君並みに無意識の色気を振りまかないで欲しい。
謙信「疲労困憊だな、早く休め」
誰にも聞かれないような小さな声には労いの温かさが含まれていた。
体が甘く震えそうになるのを我慢して頷いた。
「では、行く」
行ってしまおうとする謙信様の手を咄嗟に掴んだ。