第2章 夜を忍ぶ
(気付いて欲しい。伊勢姫様を失った時と今とでは謙信様は変わっているはず)
過去の経験があるからこそ今のあなたならきっと…
「今の謙信様は誰よりも強いのですから、大切な人が出来たら今度こそ守ってあげられると思います。
関わった人達を不幸にしてしまったというのなら、今居る人、これから出会い関わる人達を大切にしていきましょう。
今の謙信様はそれができる力をお持ちのように思います。
ご自分の強さを信じて下さい」
自分を信じることが力になる時もある。
信じてくれる人が居れば、強くあろうと踏ん張れる。
強いけどどこか危うい謙信様に、暗示という魔法の言葉をかけたい。
謙信「舞…お前」
見開かれた二色の瞳が、激しい感情を表すように揺れていた。
(怒ってる?いやそうじゃない。何か、動揺している?)
「す、すみません!余計な事を言いました!」
謙信「本当に、余計な世話だ。
相変わらずお前は、人の心にずかずかと踏み込んでくる。
俺と伊勢を引き離した家臣よりもずっと奥深くまでな」
怒られると思ったのに意外と謙信様は戸惑い、瞳は何かの感情で揺らいでいる。
「そ、そんなにですか?申し訳ありません。
謙信様はその気になればできそうなのに、可能性を閉じていて勿体ないと思ったんです。
前を、未来を見て欲しいなって…せっかく生きているんですから」
これ以上ないくらい体を小さくして謝る。
流石に自分の考え方をさらけ出しすぎたと思う。
謙信「呑気に生きてきたお前を象徴するような考え方だな」
謙信様の言葉にイチイチへこんでしまう。
「すみません…」
謙信「別に謝れとは言っていない」
「はい?」
見遣るといつもの落ち着きを取り戻した謙信様が居た。
(怒ってないし、責められもしない…)
どうしたのかと思ったけれど、通常運転に戻ってしまった謙信様の表情からは何も読み取れなかった。
「佐助を着替えさせる。その後城へ戻るぞ。話をしすぎた」
この話は終いだというふうに、謙信様が立ちあがった。
私の話を聞いてどう思ったのか興味はあったけれど、これ以上は謙信様の傷に触れるのはやめた。