第3章 正しいと思う方を
エルヴィンについて走っていくうちに雨はやんだ。
あれだけ重苦しかった雲が流れていき、太陽さえ顔を出す。
アリアはエルヴィンの後ろ姿を見つめた。
どこに向かっているのだろう。
見渡す限り、信煙弾は上がっていない。だがエルヴィンは行き先をわかっているかのように真っ直ぐ前を進んでいる。
「……あの、ナスヴェッターさん」
アリアは隣を走るナスヴェッターに声をかけた。
「な、なに?」
「ボックさんとランゲさんはどこにいるんですか?」
彼らもはぐれてしまったのだろうか。
どこにもいない。
アリアが聞くと、ナスヴェッターは唇を噛んだ。
「…………ボックさんは、死んだよ」
冷えた手で心臓を掴まれたような感覚がした。
まさか、そんな。
ナスヴェッターは手の震えを誤魔化すように言葉を続けた。
「ランゲさんは生きてる。ただ……右手と右足を巨人に食われた」
嫌な冗談はやめてください。
そう言えたらどれほどよかっただろうか。だがナスヴェッターがこんなところでそんな冗談を言う人間ではないことはわかりきっていた。
(……何人、死んだ?)
この1日だけでいったい何人。
知らないだけでまだ死んだに違いない。
(…………同期は何人生き残った?)
ローズは? 座学の得意なミアは? いつもみんなに元気をくれたアランは? あの雨の中、機能しなくなった陣形で、いったい何人が生き残れた?
これが壁外か。
これが巨人か。
これが……人類の力か。
「あぁ…………」
わたしたちはなんて無力なのだろう。
巨人の前でのわたしたちは、なんて……ちっぽけなんだろう。
押し寄せる無力感に、アリアは息を吐くことしかできなかった。