第16章 忌まわしき日
ペトラはそれからしばらく笑い続け、また歩き出す。
不満そうなオルオが後ろからついてくる気配があった。
「もし本当にそうだったらどうするんだよ。バカみてぇに笑いやがって」
「もし本当だったら?」
笑いすぎて流れてきた涙を拭い、少し考える。
「次の壁外調査での巨人討伐数を全部オルオに譲ってあげる」
軽い気持ちでそう言った。
そのまさか5分後、オルオの予想が当たるとは夢にも思わず……。
しばらく歩いていると、リヴァイの執務室が見えてきた。
オルオのトンチンカン発言のおかげでいくらか緊張が和らいだものの、その物々しい扉(もちろんペトラの気のせいだ)を前にすると、どうしても足がすくんだ。
二人並んで扉の前で立ち尽くす。
ごく、とどちらかが唾を飲み込む音がした。
「オルオ、あんたがノックしなさいよ」
「は、はぁ?? なんで俺が!」
「あんたのほうがほんのちょっと扉に近いから」
「どっちも同じくらいだろうが! そんなこと言うならお前がノックしろよ!」
「な、なんでよ!!」
「ドアノブに近いのはお前だろ!」
「いいえ、ここは私より腕の長いオルオがやるべきね!」
「このドアとの距離に腕の長さは関係ねぇっつーの!!」
言い返そうとペトラが口を開いた瞬間、ドアノブが向こうから回された。は、と二人は息を止める。
「どうぞ、入っていいよ」
中から出てきたのはアリアだった。
口元に笑みが残っている。
ペトラは思わず顔を赤くした。
部屋の目の前、しかもあれだけの大声で口喧嘩していたのだ。きっと中にも筒抜けだったのだろう。
「し、失礼しますっ!!」
しかしオルオは緊張でそんなこと頭にも浮かんでいないのか、相変わらず裏返った声を出して部屋へ踏み込んでいった。あんなにもノックするのは嫌がっていたくせに!
ペトラは慌てて「失礼します!」と続いて部屋の中に入った。