第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「わかり、ました」
「お前達の仲が良い事は尊い。それは理解しているが…」
「限度を超すなって…事ですよね」
「そうだ」
わかっているなら良い。義勇は再び七瀬の顔に自分の顔を寄せると、そっと柔らかな口付けをした。ちう、ちうと二度程吸い上げると彼女の体を自分の体で包み込む。
「俺はお前が思っている以上だぞ」
「義勇さん…何がですか? 主語がよく抜けるからよくわからないです」
「…七瀬を独占したい」
「(わあ…そんな事言うんだ…)」
「お前と炭治郎を指導して導かないといけない俺がこんな事を言う…失望しただろう」
「いえ…そんな事は」
七瀬は己の思いを辿々しくも、ゆっくりと義勇に伝えていく。
継子になってここで過ごす日々がとても充実している事、鬼殺を無事に終わらせ、水柱邸に帰宅するのが本当に嬉しい事、三人での食事が心地いい事。
「義勇さんの事、狙って…好きって言う方が周りに物凄く多いんです。隊士だけじゃなくて町で知り合った女の人もとても素敵な殿方ねって…」
嬉しくもあり、寂しくなる時もある。きっとこれが先程義勇が言った独占したいと伝えてくれた思いと同じなのではないか。
「だから…あなたと気持ちが通じ合えて、今とても幸せです」
「そうか」
「はい」
普段表情の変化が乏しい水柱の口元に柔らかい笑みが宿った。
二人の顔が近づき、また唇が重なり合う。
「今度義勇さんと一緒にどこか出かけたいです」
「そうだな」
★
「(また甘いにおいだ…)」
任務に向かった炭治郎だが、珍しく忘れ物をした為、水柱邸まで帰宅をしていた。門扉を開ける前から鼻に届いたのは恋慕のにおいだ。
「(俺は俺で頑張るぞ! 七瀬の事はずっと見ていたんだ)」
改めて決意をした炭治郎は、普段通りに門扉をくぐって自分の部屋に向かう。
【難波津に 咲くやこの花 冬ごもり いまを春べと 咲くやこの花】
義勇と炭治郎の恋戦(こいいくさ)は、まだまだ始まったばかりである。
〜義勇エンド〜 終わり