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恋はどこからやって来る?(短編・中編)

第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴



「二十八番だ」

「あの暗い歌が好きなんですか?」

「暗くない、侘び寂びだ」

「わび、さび?」

義勇は二枚の札を目の前にいる継子に渡した。それは今彼が好きだと言った札の上の句と下の句だ。

【山里は】から始まるこの和歌の作者は、源 宗干朝臣(みなもとのむねゆきあそん)。光孝天皇の皇子、是忠親王の子である。

「人の訪れも無くなり、草も枯れる。人と自然両方の終わりを歌った作品だが、時間の経過で古びていくさまは渋い味わいがある。深い歌だと俺は思う」

「深いのですか…」

やはり暗い作品ではないか。
義勇の考えを聞いても七瀬はその思いが消える事はない。うーんと腕を組んで考えだしそうな所へ襖がスッと開いた。

「お茶持って来ました! あれ? 何だかこの部屋の空気が…」

「炭治郎…ありがとう」

ちょうど良い頃合いでやって来た炭治郎に、微笑む七瀬を見てチクッと小さな痛みを胸の中で感じる義勇。

「(…?)」

棘が刺さった感覚を持ったまま、炭治郎が淹れた緑茶を飲む水柱は、そのまま継子二人が話す様子を観察していく。

「炭治郎の好きな歌って何? 今ね…」

師範の好きな歌を聞いた所だ —— どの歌なのかを七瀬から聞いた炭治郎は「侘び寂びですね!」と両目を輝かせながら義勇と七瀬に伝えた。

「俺は二つ好きな歌があって。七番と十四番です。誕生日が七月十四日なので….」

「そうなんだ! 七月生まれなんだね。誕生日って凄く身近な日だもんねー…って…」

ここで七瀬の思考が一旦止まる。炭治郎は誕生日の数字である七番と十四番の歌が好きだと言った。もしやこれは———

「師範! 師範の誕生日ってもしかして…?」

「? 二月八日だが、それがどうかしたのか」


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