• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



【目】を使うと耳にした刹那、光秀の眼(まなこ)が瞠られる。凪の言う意図に気付いたからだ。彼女が持つ不可思議な力の内、未だ使用した姿を目撃した事のない、もうひとつの使用方法────即ち、自主的に【見る】方の事を指している。
家康や光忠も、秘密を明かされた際に説明を受けてはいたが、使用にはそれなりの負担がかかると聞かされていた為、些か不安げな様子を見せていた。

「…凪、でもそれって」
「大丈夫。全然場所が特定出来てないなら話は別だけど、南蛮筒部隊の居場所、何となくは分かってるんですよね?」

気遣わしげな家康の言葉を遮り、凪は何て事はないような調子で笑ってみせる。そうして一度地図上へ視線を投げ、再度光秀へ顔を向けた。それまでじっと自分の方を見ていたらしい光秀と視線がぶつかった瞬間、彼は真摯な眼差しのまま、金色の眸を微かに眇める。
そこには家康と同じような気遣いと懸念が混ざり合って滲んでいた。おそらく、自主的に【目】を使う事による負担を深く案じてくれているのだろう。摂津で初めて秘密を明かした時、最初に光秀は、【自ら目は使うな】と言っていた。約束しろと告げられたその言葉を、真っ向から断った凪の気持ちは、今もずっと変わっていない。

しばらく視線を絡め、やがて光秀は凪からのそれを遮るよう、ふわりと長い睫毛を伏せた。薄く開いた唇からそっと溢された細い吐息は一体どんな感情が隠されているのか、それは今の凪には分からない。

「……ああ、今朝方飛ばした俺の斥候が部隊の陣を確認している。場所はこの辺りだ」
「信長公と敵本隊がぶつかり合う、ちょうど後方ですね」

光秀がことん、と乾いた音を立てて朱色の駒を地図上へ置いた。駒が示した箇所へ視線をやり、光忠が顎へ片手をあてがいながら呟く。凪も同じように視線を向け、場所を確認した後、光忠へ振り向いた。

「私の天幕から、この方向がどの辺りかっていうのは分かりますか?」
「おおよそは。出来るだけ余計な刻(とき)を掛けぬよう、私が方角を示してやる。お前の天幕周辺は、適当な理由をつけて人払いをしておけばよい」

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp