第8章 大切で残酷な暖かい過去
─数日後…
ユリス
「見ろ。届いたぞ」
レティシア
「これ…この前の」
ユリス
「そ。着けてやる」
手の甲にある証を隠す為に着けられたオーダーメイドの手袋をレティシアは、じっと見詰め
レティシア
「ありがとう…ユリス」
ユリス
「……っ…お前」
ぱっと見上げた少女は3歳の頃に消えた笑顔をユリスへ向けた。
流石はフォンテーヌ家の御息女と言うべきか、紫の瞳を細め唇を弧を描かせて笑む姿はとても綺麗で…ユリスは笑顔を見られた嬉しさと、その美しさに僅か衝撃を受けた。
レティシア
「ユリス?」
言葉を止めたユリスに、レティシアは不安そうに首を傾げた
ユリス
「お前…笑える様になったな」
レティシア
「笑う…?今まで、笑ってなかった?」
ユリス
「…あれで笑ってたのか…?」
レティシア
「うん」
感情では笑っていても今まで表情と合わなかったんだと再認識したが、少女の表情筋が感情に追いついたのだと思えばユリスは嬉しく…人生で初めて達成感のようなものを感じていた
レティシアが笑ってから数日が経った頃、エドゥアルが久し振りにユリスの家に訪れた。
エドゥアル
「久し振り、レティシア」
レティシア
「…久し振り…エドゥアル」
少女が挨拶をするとエドゥアルは優しく笑んでから、ソファで寛いでいたユリスの隣に腰掛ける
エドゥアル
「あれ…煙草、辞めたのか」
ゴミ箱に捨ててある煙草を見てエドゥアルが驚き、新聞の文字を目で追っている幼馴染を見る。
ユリスはどれだけエドゥアルが注意をしても煙草を辞めようと手放した事は無かったからだ。
それが何故、ゴミ箱の中にあるのか理解出来ず説明を乞う様に見たままでいると、ユリスは新聞を捲りながら何でもない様に告げる
ユリス
「直接は言わねぇけど…煙草、咥えるとレティシアが逃げるようになったんだよ」
エドゥアル
「成程。それで、辞めたのか」
ユリス
「まぁ…」
それを聞いてエドゥアルは納得したが、庭でジルヴァと遊ぶレティシアを見て、自分が予想していたよりもユリスに大きな影響を与えているんだと思うのと同時に…
ユリスもまたレティシアに大きな影響を与えているんだと、久し振りに2人に会ったからこそ分かった。