第14章 おかえり、未来
「大金を、誰の為に、何の為にーー
……生きてんだろ、司。テメーの妹はよ」
千空の言葉に、司が目を見開く。
やはり、ここでそのカード…『切り札』を使うのか。
葵は軍師として、冷静にその場を見ていた。自分は軍師で、人の命を預かる仕事でもある。その分、自分も身体を張った。だからこそーーこんな場面でも、冷静でいられた。
以前千空との話で彼も大金を稼ぐ司と、既得権益者を排除する司の矛盾に気がついていたようだったがーー、
妹の話も聞いた事があったのか。
ーーその一方、司の脳裏には過去のフィルムが流れた。もうずっと遥か昔の、年季の入ったーー
ーー3700年前のフィルムが。
『臨床的脳死』ーー
もう意識が戻らない。装置に繋がれていなければ、呼吸すらもままならない妹。
人魚姫が好きな妹の手術の前に、殴られた事。
掃除すら行き届いていない、家。
ーーこのままじゃ。未来は、死んでしまう。本当に、死んでしまうーー
「そんなの、イヤだ」
少年は涙を流し、決意した。
その装置を絶対に外させはしない。金がいるというのなら、俺が幾らだって作ってみせるーー
その一心で歯を食いしばり、必死で戦った。
誰かと戦うというよりは、弱い自分とずっと戦っている気分だった。未来のいない未来に怯えながら、必死に大丈夫だ、と自分を鼓舞した。
毎日身体を鍛えて、試合に出て。
ーー高校3年になる頃には、未来を6年前よりもずっと環境の良い、綺麗な病院に入院させた。
時間が空いた学校帰り、担当医の先生に、挨拶を済ませて個室の病室へ行く。そこには、人魚姫の絵本や人形など色とりどりの人魚姫モチーフのグッズで彩られた、未来が居た。
「……ただいま、未来。」
返事は返ってこない。治らない、と言われても。それでも諦めたくなかった。
未来が生きてる。それだけでどれ程救われたか。
それがーーーー
「治るかもしんねえ。石化復活時の、周辺修復能力ならな……!」
《治る》
いいのだろうか。そんな…嘘みたいな話があって。
……いや、本当は。本当は、そうであって欲しかった。ずっと誰かに、医者に、周囲に。そう言って欲しかった。
《治る可能性がある》と。治る、でなくていい。
可能性だけでも、欲しかった。