第11章 カウントダウン
「……うん、そうだね。そうしておくよ」
普段の人間離れした感情を切り捨てた葵らしからぬ、人間らしく、囁かな願いだからか。不思議と聞き届けて貰えた。
「……このまま国外追放しますか」
ずっと静かに控えていた氷月が問いかける。氷月からすれば、迷惑な存在が一人消えるから、そうなるだろう。
「ーーそうだね」
「あ、じゃあ1個だけ!」パン!と大袈裟に手を叩いて葵が笑う。
「南の森の湖。分かる?ーーあそこに行きたいな。最期に」
「……うん。それくらいは、いいよ」
きっと、羽京との想い出の場所なのだろう。
そう思った司が了承する。
……あの湖は奇跡の洞窟からは遠い。時間稼ぎにピッタリである。
ーーが、しかし。
「…………葵クン。それで、墓の前からそろそろどいたらどうですか」
氷月の冷たい声が心臓を射抜く。
……しまった。氷月は、墓に行ったと聞いて焦ってるのも、墓に何かがあるのも知っている。まさか、ここで自分をーーーー
「?どくって?」シラを切る葵。
「ーー君の立ってる、墓の前からですよ」
「…墓がどうしたの?」
ざり、と、後ずさる。不味い。時間稼ぎはしたがーー
ここで、氷月に裏切られるとは。同盟内容では、あくまで『瓦解まで』だから、まだ有効なのにーーーー
自分を消す方を、優先された。くそっ、と葵は歯軋りした。
「……うん。その様子だと、何かあるんだね。
…………氷月」
「ええ」
ヒュルッッ……
ズザシュゥッッッッウッッ
「……ッ……ハ…ッ」
ーーーー毒々しい紅い液体が、墓前で散った。
「みん……な……逃げて……っ!!!!」
今出せる精一杯の声で、葵が叫んだ。
せめて……これで、彼が……
羽京、君が……気づいて……
「何かあるのでしょう。葵クンが頑なに居座っていたのですから」
「少し、調べてみようか」司の手が、墓の下ーー
地面へと伸びる。
ゴボボボボボ……
ーー音が聴こえる。
墓を掘り起こす音。
ケータイが引っ張り出される音。
ーーー絶望の音。
みんなが、せめて奇跡の洞窟を抑えていればいい……それなら、まだ……
そう思いながら、葵は
そっと、その瞼を下ろした。