第8章 繋ぐバトン
葵の墓場からの帰り道。
今日の仕事は晩ご飯のライブとかのルーティンこそあるが、終わった様なものだ。
気分転換に、森の中を分け入って進むと、そこにはいつか羽京に教えてもらった湖があった。
そこの岩にスッと腰掛けると、靴を脱いでパシャパシャと軽く足先が濡れる程度で遊ぶ。
「……ふふ」
懐かしいなあ。羽京君が好きって言ってくれて、
その後お返事の歌をする時にここに来たんだっけーー
ーーあれから、随分と遠くまで来た気がする。まだそんなに日にちは経っていないのに。
ぼんやり空を眺めていると、誰かが近づく音を拾った。
「……そんなに警戒しなくても。僕だよ」
「なんだ、羽京君かあ」ホッとため息をつく。
「でも急にどうしたの?墓場の辺りからはここは正反対だし、監視の方は?」
そう問いかける葵に、にこにこと抜け出して来ちゃった、なんて答える。
「ふふ、羽京君にしては珍しいね。気分転換?」
「さあ…どうだろうね」
少し濁した回答に、葵が首を傾げた。
《大人でも、自分の世代より若い子達に自分達よりも幸せな世界で生きて欲しい、助けたいって未来に希望を託すーー【救いようのない馬鹿】が居るんだって事ぐらいは見て欲しいしね》
ーー未来の、次の世代にバトンを繋ぐ。大人達の覚悟。
「……葵。君は、千空と話してた時みたいに、もっと本心をさらけ出したらいいのに」
「?ああー…。千空君は、いつも直球だからかな…。だから全部本心でまるっと話せる感じがするんだよね」ふわりと笑う葵。
「……そっか。千空は、ね」羽京が意味深に呟くと、つかつかと寄ってくる。
「……どうしたの羽…」瞬間視界が暗闇に閉ざされ
ーー何処か落ち着く、森林とお日様の匂いがした。
羽京の両手が、葵の視界を塞いでいた。
「えーっと……突然どうしたの、羽京君?何?仕事の鬱憤?ヤケクソ?」
「……今敬語が取れてるのは、千空と話してた時の名残りでしょ。僕と話してる時は、まだ敬語完全に外れてないのに」
あ。これはもしかして……
「……もしかして羽京君、嫉妬してるの?」「あはは、どうかな」そう笑ってみせるが、発言内容からして千空に嫉妬してるのは間違いないだろう。