第2章 二つの影
まずは一人、司軍の奴を切り離してケータイの前に連れてこいーー
千空の指示に、大樹と杠の脳裏に浮かんだのは監視役『ニッキー』の存在だった。
ニッキーは葵のライブ活動の関係で、杠と共に彼女に協力している。葵のおかげで監視されてる圧迫感も薄くなった。
……だが、それはあくまで『個人的な』範疇だ。監視役である事には、変わりない。一人選ぶならーー
「……大樹君」「ん?どうした、杠」
「……連れてくる最初の一人、ニッキーちゃんと、葵ちゃん。どっちの方がいいと思う?」
「ニッキーじゃないのか?」大樹がそう問いかける。
「…そうだよね!なんでもない」
千空が『それが一番血が流れねえ』と言い切るからには、穏便に事を済ませるーー
いわゆる『寝返り作戦』だろう。
そうなると、優先的に説得する人の選択肢に必然的に葵が入ってくる。
彼女なら、石像パズルにも協力してくれている。
極秘のミッションの事を漏らさず、自ら石像の破片を集めてはくっつける作業も手伝ってくれるくらいだ。恐らく友好的に話を聞いてくれる確率は高い。
何より、彼女の帝国内の影響力ーー石化前の知名度によりカリスマ性は高く、密かに司より彼女を支持する人も少なくない。
……なら、先ずはニッキーちゃんに味方になってもらって、それからーー
杠は一人、内心で祈りを捧げた。
(葵ちゃんにーー味方になってもらう所まで行けますように)
******
ーーニッキーを選んだ大樹と杠は、ガチなリリアンファンである彼女を仲間にするのに成功した。
「いーだろう!!取引成立だ!!」
ニッキーがバサッ、とマントを翻す。
「おぉおおおおおおお!!!」
「ありがとう、ニッキーさん……!!」
二人は歓喜の声に湧く。
「うおおおーーー!!司帝国初の仲間だーーー!!!」
「あはは…!!」
そう叫ぶ大樹は知らないがーー葵は、既に仲間の様な働きをしている。そしてーーかつて彼女の監視役の羽京君も、彼女の振る舞いを見て見ぬふりをしてくれている。
その後も、リリアンのモノマネについてニッキーの指導が入るがーー
ふと、ニッキーの声のトーンが落ちる。
「…ただ問題はーーあの二人だね」
「……?」
ゲンからすれば、一人は思い浮かんだ。羽京の事だろう。けど、もう一人は……?