第10章 【第2章】私と彼の声帯心理戦争
「羽京君、おはようです〜。今日も来ましたよ〜」
そう言いつつ私ーー葵は羽京君の横に座る。
羽京君は、私の監視役だ。私の見目や磨き抜いた演技力の前では、誰もが私に好感だけを抱くだろう。
ーーただし、彼を除いて。
「あはは……おはよう」羽京君は少し固い表情のまま、私の顔を貫く様な視線を射る。
うーん。流石は弓使い。視線の扱いが一流だ~。
「羽京君は今日も容赦ないですな〜」私は臆する事無く立ち上がりぐい〜と背中を伸ばした。
「さて、今日も始めますか」にやり。私は羽京君に笑ってみせる。
「何を始めるの?」
「え〜??しらばっくれないで下さいよ〜。大体今日も今日とて、まだ監視状態だし〜」ぶーぶーと拗ねると、羽京はため息をつく。
「……君がそう仕掛けたんだよね。葵」
「んん〜何のことだか〜。でも私は楽しいですよ、羽京君との『戦争』!」
私は高らかにそう宣言した。
ーー正確には、私は羽京君とは『争って』いない。
羽京君との『共同戦線の』戦争なのだ。
尤も、それを言った所でどうせ信じて貰えないのは見え見えなので、言わないで私と戦ってるーー
という事にしてるだけだ。
私が目指すのは、ただ一つだけ。
『誰も泣かないし血を流さない世界』
《私以外が》みんな笑ってる世界。
氷月を抑える布石に自身を使ったのも。
謀略の議会で氷月に演技してもらったのも、全ては自分が司に歩み寄りやすくする為であり、これでウラで自分がまさか氷月と共謀しているとは思わないだろう。
氷月なら司を殺すまで考えてるだろうが、自分はそこまでは考えてはいない。若者だけの理想郷、といういつかは崩れる国を滅ぼす為の一時的同盟だ。『国を滅ぼす』までは目標が同じ、というだけである。司には氷月の同行を探る、と告げて逐一密会をしていた。……もちろん羽京の耳を掻い潜る為に、文書を使っていたが。
そして司と氷月の次に強いとされる羽京を自身の監視役としてある意味『監視下』に置くことで、氷月が動きやすくなる。敵は1人でも減らした方がいいーーと氷月には伝えてあった。
そして、科学王国との戦争が始まった際には、裏で自身の味方陣営を寝返らせ、穏便に帝国を崩す。
ーーここまでが自身の描いたシナリオだった。