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僕と彼女の声帯心理戦争

第7章 【第2章】謀略の議会


葵と言い合いになった、翌朝。

「羽京。朝食の後、『例の洞窟』に寄ってくれないか。相談したい事があるんだ」
そう無表情で告げたのは、この帝国の長たる司。

分かった、とだけ返事をする。

結局、昨日氷月との密会の後、彼女とは上手くいっていない。……いや、そもそも今まで上手く行っていたのかすら分からない。

羽京は黙って、葵に視線をチラリと向けた。
そこではファンの皆にいつも通りにこやかに対応する彼女の姿があった。

ーー多分、彼女の事を聞かれるのだろう。監視してきた限りでの彼女の様子。言動。

嫌だなあ。

自分が見てきた限りでの彼女の印象は、『危ういが、必ずしも全てが悪とは言い切れない人間』という印象だった。
意図してかどうかは分からないが、石像破壊を止めた。石像パズルにも協力した。
自分からすれば、彼女の方が司より善人だった。

……しかし、それらはいずれも『司帝国』の理念からすれば、悪だ。
自分にとっては善人でも、彼女を裁判にかけるのは司。判断を下すのも司。

自分の無力さを感じながら、羽京は静かに今日も葵の作ったスープを啜った。

ーー悲しいくらい、優しくて温かい味が舌に染み込んだ。

******
「…………!?」

例の洞窟。そこは、司の『玉座』のある洞窟であり、司が真ん中の玉座に座っていた。別名、『玉座の間』とも呼ばれる場所。

自分が呼び出されるだけならまだ良かった。

右手にはーー氷月が静かに佇んでいた。
何を考えてるのか分からないいつものポーカーフェイスで、気配も断ち切っている。

「ーーじゃあ、会議を始めようか」

玉座に座った司が、重々しく口を開いた。

「ーー氷月。先ずは君から報告を聞きたい」

え。羽京は思わず心中で零した。
葵の話なら、自分に真っ先に話が行くはずだ。何故、氷月が?
ーーまさか、昨日の接触が原因か?

そう悶々とする間に、はい、と氷月が1歩前に進み出る。

「葵クンのですがーー私は彼女の処遇を改めるべきだと思います」

「うん。氷月ーー俺もそう思うよ」ニッコリと司が返す。

「彼女は調理係や夕食時のライブ活動で、俺達に貢献してくれてる。確かに『武力』こそ無いがーー
彼女は今や、俺たちに無くてはならない存在だよ。尽くしてくれてる以上、監視は解くべきだと思う」
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