第12章 【第3章】心の中に居た人
「うきょーくん、そいえばご飯の希望はあります?」
「え?」そう言って振り向く姿に、ああいいなあ、と思ってしまう。
その感情にフタをして、今度の晩ご飯悩んでるんです~と言う。
嘘だ。単純に彼の好きな物を作ってあげたいだけ。別にいいのだ、自分なんて特別扱いをされなくったって。
これまでしてきた謀略の数々を思い浮かべる。
……うん、我ながら酷い所業。これで好意なんて持たれないだろう。好意なんて持たれた日には……
今まで良くしてくれた人の姿を思い浮かべる。悲しい別れーー
良かった、平常心が戻ってきた。
うーん、と羽京が悩む。
「お肉系であれば何でもいいかな」
どてっ、とこれにはズッコケるしかない。
「うきょーくーん?」そう言いながら巫山戯たフリをしてズズい、と顔を近付ける。
「え」「何でもいい、は禁句レベルです!!いちばん悩むやつです!!」
「そうは言われても…いまいち思いつかなくて」
あはは、と笑う羽京君に仕方なくメニュー案を出す。
「……お肉でも煮込んで柔らかいのとかは?角煮とか」
「角煮なら好きだよ」「ほいほーい」
それだけ言ってくるりと身を翻す。
あ、ちょっと!と羽京君が慌てて追いかけて来る。
…本当は喜んだ顔を見られたくなかっただけだ。
だって、料理の話でも好きだよ、なんて台詞を言って貰えたのだから。
……私は好かれたいのだろうか?悪い子なのに。悪女なのに。
それは……流石に、高望みをし過ぎだ。
先日羽京君に『君の前から居なくなったら、どうするの?』と聞かれた時は、正直心臓が止まるかの様な思いだった。
……けど、少なくとも今は。羽京君は、ここにいる。お傍に置いてくれている。
いいじゃないか、今満たされているなら。
私は上機嫌のまま、今日のファングッズ作りの作業場へ向かった。