第11章 【第3章】気を許してはいけない人
ーーいつか彼女が朝ご飯を森でくれた時の様な、綺麗な笑顔だった。
「っ…………」駄目だ。この笑顔に、この台詞は、反則技である。
これじゃあまるで…愛を告白されたかの様だ……
思わず目を逸らした。顔を見られたくなかった為だが、彼女はそれがどうも伝わらなかったらしい。
うきょーさーん?と疑問詞で問いかけている。
「……あのね、葵……そういうのは、もっと大事な人に言うんだよ」そう諭すように言う。
「だいじな、人?」あ、駄目だ。分かってない。
「具体的にどんな人なら良いのでしょう??」
「とにかく、無闇矢鱈にそういう台詞は言っちゃ駄目だよ??」トン、と彼女に向き直ると唇に手を置いた。
「ふにゃんっ」猫の鳴き声の様な声を出す。
ちょこんと女の子座りしている彼女は確かに愛らしい子猫の様に見えた。ふぁい…と言いつつ頷く。
「……ならいいけど」僕は黙って上着を着直す。
正直、女の人に裸を見られるのはなかなか堪えるものがあったが……彼女からしたらどうってこと無いのだろう。未だに床に座っている。
ぎゅるるるぅ……
彼女から気の抜ける音が鳴った。
「わ~……ご飯もついでに取ってくれば良かったですな~」
「……いいよ、僕が取ってくるから。君はもうじっとしてて。この部屋で」
いい?出たらもう監視役しないからね??と謎の脅しをかける。
するとしゅーんとした顔で「居なくなっちゃうのはヤなので頑張ります~」と言うものだからうう…と思わず心中で唸る。
……まさか、彼女は自分が知らず知らずのうち僕に対して執着ーーあるいはまた別の感情を抱いてる可能性に気付いて無いのだろうか。
そう思いつつ、じゃあ行ってくるね、いい子にしててね、ともはやどちらが歳上か分からない言葉をかけて、僕は部屋を出た。
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「いい子……かあ」
羽京の耳ですら流石に拾えない距離で、私ーー葵は呟いた。
「私は悪い子なのに…。今更いい子になんて、なれるのでしょうか」
ほっぺたをふに、と触る。さっき羽京君が触ってくれた所。
「……ふへへ~」
なんだか嬉しくて笑ってしまう。
お傍に置いて欲しい。というのは、本当だ。
だって、羽京君は……羽京君の心はーー
「誰より、綺麗ですから。守りたいだけです」
愛という言葉の中身をまだ識らないその女性は、空中に向かって呟いた。
