第50章 最後のデート
「ウサギの鳴き声初めて聞いた」
「これって良いってことだよな?」
「はい」
「それにしてもマジで嫌がらねーな。こんだけ撫でても逃げねーし、お前ホントにウサギ?」
当然マイキーの疑問にウサギは答えるはずがなく、カノトの膝の上で目を瞑っている。
「なぁ、ウサギって何食うの?草?」
「流石に草だけじゃないと思いますよ。あ、ちょっと待ってて下さい」
「どこ行くの?」
「ウサギさんの餌、あっちで売ってるみたいなので買ってきます。万次郎くん、この子をお願いしますね」
「え……」
リラックスしているウサギを優しく抱いて、今度はマイキーの膝の上に乗せる。突然ウサギを託されたマイキーの戸惑う声には気づかず、カノトは立ち上がってウサギの餌を買いに行った。
「(…どうすりゃいいの?)」
マイキーにしては珍しく狼狽えている。小動物の扱い方など分からないマイキーは自分の膝の上に乗るウサギを見下ろす。
「(オレが触れたら逃げられるんじゃね?コイツもさっきまでは気持ち良さそうに目ぇ瞑ってたのに今はオレのこと見てるし…)」
カノトの膝にいた時は目を瞑ってリラックスした体勢だったのに、今はマイキーの膝の上にちょこんと座り、じーっとマイキーのことを見上げている。
「…お前さ、もう少し警戒心持てよ。オレらは良い奴だからお前のことイジメたりはしねーけど、中には悪い奴だっているんだし気をつけろよ?」
心配して言えば、ウサギはまん丸の黒い瞳で不思議そうに小首を傾げる。その反応にマイキーは苦笑を浮かべた。
「万次郎くん、お待たせしました」
「おかえり。買ってきた?」
「はい。あまりあげると良くないと聞いたのでキャベツとにんじんを買ってきました」
「オレもやっていい?」
「もちろんです。まずはキャベツからあげてみましょうか。はい、万次郎くん」
カノトから手渡された小さめのキャベツをウサギの口許まで運ぶ。
「ほら飯だぞウサ吉〜」
「ウサ吉って…もしかしてこの子の名前ですか?」
「そ。コイツは今日からウサ吉だ!」
「愛着が湧いて離れ難くなるので名前は付けないで下さいよ」
「いいじゃん。な、ウサ吉♪」
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