第22章 吾妻悠生
「"二人きりになれる場所"って…」
「そ。お化け屋敷♥」
様々なお化け達が大きめの看板に描かれ、その横には【ようこそ。恐怖のお化け屋敷へ。その体で本当の恐怖を体験せよ──。】と血で書かれたように赤い文字が下に垂れている。
「遊園地の醍醐味だろ♪ここなら中も暗いし、手だって繋げるじゃん。なんなら暗がりに紛れてちゅーとぎゅーもできるし♪」
「……………」
ウキウキと愉しげに顔が緩むマイキーとは逆に、怖いのが苦手なカノトは、お化け屋敷から全速力で逃げ帰って来るお客達の悲鳴と恐怖に染まる顔を見て、言葉を失う。
「や、やっぱり怖いです…」
「その為にオレと手繋ぐんでしょ?」
涙目になっているカノトに手を差し出す。カノトはそっと手を握った。
「絶対に離さないから大丈夫だって。途中で腰抜けて動けなくてもちゃんとゴールまでおぶってってやるからさ♪」
「次の方どうぞー!中は暗いので懐中電灯で足元を照らしながら進んでくださいね!」
「ほら、行くぞ。カノ、懐中電灯受け取って足元照らして」
「は、はい…」
入口でスタッフから渡された懐中電灯を受け取り、マイキーと手を繋ぎながら中に入る。その時に聞こえた、"え!?今のお客さん、手繋いでた!?男の子同士だったけど!!何それ萌える…!!"という会話は、これから襲い来る恐怖で頭がいっぱいだった為、聞こえなかった。
✤ ✤ ✤
お化け屋敷の中は暗く、渡された懐中電灯の灯りを頼りに進まなければ、足元が見えず、躓いて転びそうになる。
「結構暗いな。転ばないように気をつけろよ、カノ。」
「だ、大丈夫です。ちゃんと照らしてます。そ、それより…中ってこんなに静かなものなんですか?」
「オレらの足音とたまに聞こえる風の音しか聞こえねーな。なぁ知ってる?このお化け屋敷って、相当怖いらしいよ。入った客が必ず泣きながら全力疾走でゴールすんだって」
「(さっき見たから知ってます…)」
「マジで本物の幽霊が紛れ込んでたりして」
「や、やめてくださいよマイキーくん…」
「なぁに。もう泣きそうな顔じゃん。まだ入ったばっかなんだけど?」
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