第55章 明司兄妹
「確かにあれだけの強い殺気をぶつけられたら恐怖で身体が竦んで死を覚悟するだろうね。でも僕はどんなに強い相手だろうと立ち向かう勇気を持つって決めたんだ」
「立ち向かう勇気か…」
「大事なものを守るために僕は戦う。どんなに最悪な状況に追い込まれても心だけは絶対に折らない。諦めたくないんだ…失いたくないから」
「……………」
「それが不良の世界で生きると決めた僕の決意だよ」
話を聞いて陽翔は真面目な表情を浮かべて暗がりの空を見上げる。
「…やっぱすげぇよお前」
「君も勝てない相手に喧嘩吹っ掛けられたら遠慮なく僕を頼っていいよ。こう見えて喧嘩は強い方だからさ」
「おう!じゃあ今日はこれで帰るな!お前も色々と気をつけろよ!」
「なるべく気をつける」
「また学校でな」
ニッと笑い、陽翔はゼファーのエンジンを吹かせ、雨降りの中、走り去って行った。
「……………」
陽翔を見送った後、店の中に入ろうとすれば、ザッと地を踏む足音が聞こえた。
「いいダチだな」
「えっと…明司…武臣、さん…」
「"武臣"でいい。少し話さねえか?」
煙草を咥えた武臣に誘われ、場所を移動する。
「あの…僕に何の用でしょうか」
「マドカは元気か?」
「!兄さんを知っているんですか?」
「アイツとは真を通して知り合った。昔から会う度に"妹"の話が止まらなくてな」
「!」
武臣は吸っていた煙草を地面に捨て、靴で火を踏み潰す。
「男の格好してンのは兄貴の真似事か?」
「少し…事情がありまして…」
「そうか」
「武臣さんは…兄を黒龍に勧誘しようとしてたって本当ですか?」
「あぁ、でも見事フラれちまった。『皇帝』と恐れられた男をどうしても仲間に引き入れたかったんだが、アイツはオレらの世界に興味ないんだと」
「(昔から不良が嫌いだったからな。)」
「でも1番の理由はきっとお前だと思った」
「僕?」
「マドカはお前が思ってる以上にお前を大事にしてる。いつも自分より妹を優先させてた。黒龍に入れば家族との時間が減る事も分かってたんだろうな」
マドカがどれほど自分を大事に思ってくれているのかを改めて知り、嬉しくなった。
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