第6章 キスの味
「大丈夫だ。夏油の傷は致命傷には至らない」
よかった。反転術式の能力はすさまじく、ほんのわずかな治療で夏油先輩の顔色が戻っていく。話が出来そうなくらいに治癒した夏油先輩にあたしは何気なく聞いた。
「五条先輩はどうしたんですか?」
「悟は……悟は、殺された」
……。
何を言ってるんだろう。まだ治療の途中で夏油先輩は夢でも見てるのかな? あまりに非現実的なひとことにあたしはこれは、情報が混乱してるだけだと思った。
「任務失敗だ。結界内に敵が侵入して星漿体はわたしの目の前で殺された。尊、すまない、悟もその前に殺られてる」
え? またまた夏油先輩、こんな時に悪いご冗談を!
嘘でしょ? 嘘ですよね?
悟くんが殺られる? 死ぬ?
あたしが全力で術式仕掛けても、不意打ちで攻撃してもビクともしない悟くんが、どうやって死ぬの?
夏油先輩は、天与呪縛のフィジカルギフテッドがどうだとか、呪力が0の術師殺しだとか説明を始めた。
何の話をしてるんだろ?
沖縄で聞いてきた伝説か昔話?
悟くんが死んだ?
あはは、そんなわけない。
なんでそんな真剣な顔して、嘘の話してるの?
「五条先輩が死んだなんて冗談ですよね?」
「本当の話だ」
嘘……。
あたしの中で、すべての生命活動が止まったような音がした。パリンて破壊された音。
次の瞬間、またそれらは修復されて動き出す。こうしてはいられない。
「行かなきゃ、悟くんのとこ行かなきゃ」
目で見るまでは信じられない。悟くんが死ぬなんてあり得ない。それにもし怪我を負ってるなら、夏油先輩みたいにまだ助かるかもしれない。
あたしが助けなきゃ! 慌てて飛び出そうとすると夏油先輩にガシッと腕を掴まれた。