第14章 花爛漫
「もう、自分でできますから…」
と、やんわりと断ってはみるものの、ぷくっとむくれては強行することもしばしばで、されるがままにしていると満足そうに後ろから抱きしめてくる。
お風呂まで許してしまえば、結果は言わずもがな。
のぼせるまで致された時は慌てて介抱されて、偶然様子を伺いに来た松乃さんに童磨さんが怒られるという珍事まであったっけ。
子ども、大人、鬼の片鱗…、突然やってくる変化に翻弄されながらも気が付けばいつも笑っていて、退屈なんて無縁だった。
「菖蒲がよく笑うようになって、日々生命力に満ちていくのを見るのは、凄く愉しいね…」
わたしを膝の上に抱いたまましみじみとそう言って、心に花を咲かせるような暖かい眼差しを向けられる。
無垢ながらも沢山の愛情と献身的な施しによって、医師が驚くような速さで回復していった。
数日後。
お医者様による定期健診の日。
「いや…。本当に驚く速さで回復されましたね」
「と、言いますと…」
傍で医師の話を聞く松乃は湧き上がる期待を喉までに抑えてその先を促す。
「そろそろ本格的にお仕事を為されても問題ないでしょう」
菖蒲の表情が花開き、松乃が「よかったですね」と、その肩や背をさすった。
「承知いたしました。長い間診ていただき、ありがとうございます」
一方、童磨の方はというと複雑な面持ちで、それを見ていた。
こころには、今より傍にいることが少なくなってしまう事と、他の者とのかかわりが増える事が増えるという寂しさと
嫉妬心のようなものが渦巻く。
「童磨さんが片時も離れずお世話してくださり、思いのほか早くまた舞えそうです。本当にありがとうございます」
喜びに満ちた表情で、自身に対して発せられた感謝の言葉は、湧き上がっていたざわめきを静めて、代わりに華やがせていく。
一瞬見忘れそうになっていた菖蒲が輝く最大の瞬間とその『志と笑顔を守る』という契約を思い返す。
「また、舞台の上で華やぐ菖蒲を見れるね。凄く楽しみだ…」
人目があるにもかかわらず、菖蒲を腕の中に引き寄せて、その頭を子どもを褒める時のように慈しみを込めて撫でると、彼女は嫌がることもせず、腕の中で胸に体を預けて嬉しそうに笑っていた。