第20章 10月31日 渋谷にて
上の方に目を向けてもやはり誰もいない。
ザシュッ
なずなの注意が完全に上を向いた瞬間、剣がひとりでに動き出し、無防備だったなずなの喉を切り裂いた。
「っ!!」
この呪具、勝手に動くの!?
ドクドクと溢れる血。
まずい、と懸命に傷口を押さえるが、指の間からどんどん漏れ出てくる。
呪具が襲いかかってくることを考えると、両手で傷を押さえるわけにはいかない。
更に気管にも血が入ったのか、満足に呼吸もできない。
お願い、早く治って……!
「あーっ!また女の子がいる!」
遠くから嬉しそうな声。
なずなが首の傷口を押さえながらそちらを見ると、金髪をサイドテールに結んだ痩せた男・重面 春太がいた。
初対面だが、情報だけは知っている。
交流会時に高専に侵入してきた呪詛師の1人。
そしてこの渋谷で補助監督と窓を幾人も殺してきた人物だ。
でもなぜ?
七海さんが私達と合流する前に息の根を止めたと言っていたのに……
実際、重面の鼻は潰れ、前歯は折れている。
強烈な打撃を受けたことが窺えた。
……にもかかわらず、生きている。
しかも普通に動けているのだ。
反転術式とも思ったが、だったら潰れた鼻も治しているはず。
なずなの喉を切りつけた呪具はトコトコと重面の手に戻っていく。
そして、重面は新たな玩具を見つけた子供のように笑い、こちらに歩いてきた。