第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「見くびるな!そんな攻撃じゃボクは祓えない!」
なずなの首に掛かった手が動き、喉に鋭い鉤爪が迫ってくる。
本来なら焦ってもおかしくないが、あくまでなずなの心はただ一点のみ。
―絶対に白稚児を祓う―
願わくば、白稚児の魂もあの白い子供達と一緒になれるように―……
ここで私が喉を掻き切られても自分で治せる。
一時的に戦闘不能にはなるけれど、白稚児が油断したところを突いて、皆が祓ってくれる。
逃げ出せないこの状況下で私がやらなくちゃいけないのは、鬼切を放さないこと。
そこだけに注力すれば……
鬼切を握り締め、来るべき痛みに備える。
瞬間、
ザシュッ
何かを切る音と共に首を締め上げていた力が突然外れ、後ろに引っ張られた。
「渡辺っ!!」
「ケホッ、ふ、伏黒くん!?」
影に潜んで背後に迫った伏黒が白稚児の腕を切り落とし、なずなを救出したのだ。
「ナイス伏黒!こっちは任せろ!」
人質がいないのなら後は簡単。
片腕を失った白稚児に虎杖が殴りかかる。
既に野薔薇の共鳴りを受けた上に、なずなに胸部を貫かれている白稚児は虎杖から逃れられない。
マーキングしようと手を伸ばすが、片腕だけで届くはずもなく、一方的に追い詰められていく。
「嫌だ、なんでオマエらのためにボク達が奪われなきゃいけない!嫌だ!そんなの許さない!!」
白稚児は癇癪を起こした子供のように喚くが、抵抗も虚しく虎杖の拳が心臓を貫いた。
「ぜったいに……ゆる、さない、んだから……」
生贄となった子供達の中で唯一怒りを発露し、呪いとなった白稚児の慟哭は、細い木々の間に消えていった。
約800年にわたって生贄を捧げ続けたことで無垢蕗村が享受していた平穏もここで幕を閉じる―……