第32章 御三家
『……どったの?』
静かでさあ。ただでさえいっつも何かしら騒がしいのに……体調悪いのかな?
彼の事だからその辺に甘い食べ物とか落ちてて「美味しそうなのみっけ!」って拾い食いとかしてないかな?マインドが小学生な時があるからやらない、とは言い切れないんだよね、この人は……。
心配しながらに悟を見ればにこ、と口元に笑みを浮かべてる。
「オマエの最後の学生の朝をさ、こうしてしっかり焼き付けてんの」
『あっ、拾い食いでの腹痛を耐えてるワケじゃなかった!そういうのは素顔で見とけ?アイマスク下げてさあ……』
「ちょ、なにオマエ僕が拾い食いするヤバイ大人だと思ってたの~?」
アイマスク越しでも良く見えるんだろうけれど。
悟は口を尖らせ文句をピヨピヨと言ったあとに口を一文字にし、私が素顔で見ろといった事を「オマエを直で見んのはやだ」と拒否した。えっナンデ?普通にショックですが。
最後のボタンを留め終わり、バッグを持って。壁に凭れる悟に寄る。
『なんで直で見るのイヤなのさ?』
いつも見てたのに急にさあ……。後から来るカレーの辛さとかアレルギーか?
悟はそんなのも分からないのかという態度で肩を竦めた。
「直に見たら目が焼けるでしょ」
『……よだかの星かなんか?ほら、直に見とけー』
片手を伸ばし悟のアイマスクに手を当てる。そのまま下へと指先で下げた所で片目が露わになってる悟が私の手首を掴んで阻止した。
「きゃー!ハルカちゃんのえっち!スケッチ!ワンタッチ!」
『朝からやっぱりうるさいですねー、この人ったら!心配して損した!』
「えー?あれで心配してたの?もっと上目遣いできゅるるんっとした感じに、さとるん、だいじょうぶ~?(裏声)って僕の理性が棘の呪言ばりにぶっ飛ぶくらいにきてよー!」
『あ、うん紛れもなく健康体そのものな悟でした、もう心配要らないねー』
布越しじゃ分からない素顔が瞳を細め、白い睫毛を並ばせてにっこりと笑ってる。
ガサ、とビニールか何かの音。私の胸元に悟は何かを押し付けた。反射的にそれを受け取って、彼からその手に収まる程度のものに視線を落とす。
ああ、うん…小さいクラッカーがたくさん入ってる片手に収まる程度のお菓子。