第20章 呪胎戴天
私は手にした刀の向きを変える。
「綾瀬……何を」
「伏黒くん」
役立たずの私に、もしもたった一つだけ。
今この状況を打開する、役立たずの力があるとしたら。
それを使わない手は、ないの。
「虎杖くん、ちゃんと呼んでくるから」
刀をそのまま振りかざして。
「や、めろ……やめろっ!! 綾瀬!!」
自分の胸に、突き刺した。
「……く、っ」
私の胸から溢れてくる、私の汚れた血液。
伏黒くんが私に手を伸ばすけど、
地面に落ちた私の血液が、結界となってそれを阻む。
胸から滴る血が、私を囲んで、私を中心に羅針を描く。
「流呪……操術」
別に内緒にしてたわけじゃないんだよ。
でも本当にさ、使い道のない術式だったの。
私の命を鍵にして、大事に仕舞われた、役立たずの術式なの。
《ほう……自らを生贄にした術式解除か》
もしも、傑さんの死を、私が予測できていたなら。
傑さんの呪力が身体にある内に、たぶん私はこの術式を使ってた。
「術式……流転」
たった1人のための、たった一度きりの術式。
私の中にある、ただ1人以外の全ての呪力を身体から流して。
体内の呪力をただ1人の呪力と同質にすることで成立する。
――魂の完全同化。