第11章 ラングラー
ー研磨sideー
「俺? オリンピックか… まぁ別に、俺はどっちでも」
思い出したようにつくねをピーマンに突っ込みながら角名くんが。
答えとは言えないような答えを。
…っておれもよく言う感じかも。
「…んー、でも日本代表ってのは確かにアガるな。
いつも戦ってる人らとチーム組んでやるの楽しいもんな。
それの日本代表版とか、楽しいだろうなとは思う」
「ええやん、夢あんな」
「治はブレないよね。2年の時侑と言い合いしてたよね」
「あぁ、したな。あれは侑が悪いねん」
「まぁ、寂しかったんじゃないのって銀とかは言ってたけどね」
「なになに? 聞いて良い話?」
「ぉん、大したこととちゃうよ」
「あ、動画あるよ」
「角名お前なぁ… 消しとらんの」
「侑にもっとファンがついたら高く売れそう」
角名くんが動画をiPhoneで見せてくれたんだけど
なんだろ、結構…… かっこいい喧嘩だった。
もっとただわちゃわちゃ言い合いかと思ったら、
内容が進路のことだからかな、うん、かっこよかった。
双子ってよく考えるとすごい生き物だな、とか。そういうことも思った。
高校まで部活一緒にしてて、違う道を進むのって、どんな感覚なんだろ。
『うひょー 2人の喧嘩って迫力ありそうだねぇ』
「今の見て、そこ?」
「いや俺も思った」
「おれも」
「迫力あるなぁじゃなくてありそう?」
『うん、生で見た臨場感っていうか』
「角名は撮影の腕もっと上げないとな」
「何で俺が… 何でそうなるの」
「でも角名って今見た感じで見てそうじゃない?」
「は?」
「平面っぽいっていうか、なんだろ、ブレないっていうか」
「は?」
「温度がない」
「あるし」
「あったらもうちょっとぶれるって、人が真面目に喧嘩してるとき」
「真面目に喧嘩」
「さっきのは真面目な喧嘩だろ〜 でも治くんかっこいいな!すげーかっこよかった」
「あんなん、喧嘩の勢いで言うただけやけどな。 でもまぁ、幸せな人生歩むで、俺は」
『うん、治くんも、侑くんも。 幸せな人生を』
幸せなんて誰かと比較したりできるものじゃないと思うけど
双子の前でそういうのってすごい、陳腐な感じするな。
多少、必要なことなのかな、というか。