第11章 ラングラー
ー古森sideー
『恋、してるよ。 ずっとずっと、いい恋をね、させてもらってて。 …それにね、』
上の空でどこか固かった穂波ちゃんの空気が少しほぐれた。
俺はそうしようとか思ってできるような人間じゃないから
ただなんとなく、俺の話ばかりを聞いてきそうな穂波ちゃんにちょっと質問してみた。
あんまり掘り込みすぎずに、浅めのやつ。
でも、出てきた質問があまりに馬鹿馬鹿しくてちょっと内心がーん、ってなってたけど。
まぁ、結果的に良かったのかも。
『わたし、たくさん恋してるの』
「たくさん?」
『太陽にも海にも風にも。葉っぱにも木にも大地にも…』
「あぁ、うん。わかるよ、みてればわかる」
『性別、年齢問わず、出会うたくさんの人たちに恋、してる』
「…」
『倫ちゃんにも治くんにも、古森くんにも。
しかも、その、ここ、とか。 こんなとこ、とか。
いっぱいあって、それぜーんぶひっくるめて、古森くんっていう人に恋してる』
「…」
『だからただでさえ幸せなのに、研磨くんっていう存在に出会えて、恋に落ちて。
奇跡みたいなことに、すきに、なってもらえて』
「…」
『わたし… なんか、なに言ってるかわかんなくなってきちゃった』
そう言ってすこし所在なさげに
でもすっげー綺麗な顔でクシャって笑って俺をみた穂波ちゃんに、
何か上手いこと言ってあげれたらいいんだけど、特別浮かんでこなくて。
でも、ただ聞いてて思ったのは、
「研磨くんが、穂波ちゃんのそういうとこを好きで、
大切にしたいって思ってることが… ちょっとビビるくらいにわかっちゃった。
擬似体験じゃないけど、あー、この穂波ちゃんを壊しちゃダメだって、思った」
『え?』
「いやごめん、見当違いなことしかしてないよね…笑
もっと、上手いこと言ってあげれたら良いんだけど、いかんせん俺、そういうのできない。
じゃあ、最初っから話しかけんなよって話なんだけど… それもできないっていう 笑」
『…古森くん、ほんっと……そういうとこだよ……』
そう言って困ったように笑って、
笑った拍子に目尻から涙が頬に伝う。
それを見て、本当に綺麗な子だな、ってそんな馬鹿げたことしか俺の頭には浮かばない。