第13章 新たな風
「及川さん、子供に教えるの上手ですよね」
「そうだね、初めは猛の付添で来てくれてただけだったんだけど、あれだけの選手だからね、子供たちも学ぶことが多くて…だから寂しくなるよ」
「え…寂しく?」
「ああ、彼は今日が最後だからね」
「え、そうなんですか?!」
「?…あ、うん、だって彼は…
「歩ちゃーん!今から紅白戦やるからビブス取ってきて!」
コーチが何かを言いかけていた気がするけど、及川さんに呼ばれてその場を後にした
今日で最後…か
これから大学の練習とか増えて来られなくなるってことなんかな
私は特に深く考えず、畳んであるビブスを拡げて男の子たちに配る
紅白戦が始まり、真剣な表情でコートを見守る及川さんに後ろから近づいて冷えたペットボトルを頬に当てがう
ヒヤッ
「わっ冷たっ」
「あはは、毎回いいリアクションですね」
「もう、びっくりするじゃん」
「びっくりさしたろと思ってましたから」
「もうっ…でもありがと、喉カラカラでさ」
多分休憩中、子供の水分補給ばっか気にして自分のことは疎かにしてたんやろう
私が手渡したボトルの蓋を開けると、及川さんはゴクゴクと喉を鳴らしてミネラルウォーターを流し込んだ
「及川さん、このビブスってこの後集めてどうするんですか?部活やったら学校の洗濯機で洗いますけど」
「ああ、保護者が当番制で持ち帰ってるみたいだから、まとめて最後解散の時に当番の保護者に渡してくれればいいよ」
「分かりました」
私は及川さんに教えてもらったことをメモする
「いつも、それ持って歩いてんの?」
「それって、メモですか?」
「そーそー」
「はい、中学の時からのクセで…私中学からマネージャーやってたんですけど、当時はルールも何もかも意味分からなくて、教えてもらったこと必死にメモするようにしてたんです」
「歩ちゃんにマネージャーやって貰えるやつらは幸せだね、どうして青城に来てくんなかったの?」
「私変な時期に転校してきたから、近くの高校ってので烏野になったんですよね〜でも青城楽しそうですよね!及川さんとか岩泉さんとか金ちゃんも国見ちゃんもいて…あ、あとデニーロも!」