第8章 それぞれの春高まで
「浅草寺って、何のご利益があるんですか?」
お寺の方に歩いていきながら、私は海さんに訊ねる
「ああ、なんか何でもらしいよ」
「何でも?!」
「商売繁盛も健康も必勝も何でも」
「へぇー、なんか太っ腹ですね」
「本堂の前のとこのさ、線香の煙を頭に被ると賢くなるとか言うよな?あれ?身体の悪いところが治るんだっけか?」
夜久さんが言う
「あ、なんかそれ見たことあるかも」
みんなで本堂の方へ向かう
厳かで立派な浅草寺で
春高、全国制覇できますように
みんなともっと一緒にいられますように
あと…ツッキーと…いつまでも想い合っていられますように
なんて欲張りにいっぱいお願いした
だって何でも来いの太っ腹なお寺やもん
午後からはお土産もの屋さんを見て回った
「歩ちゃん、次こっちこっち!来てっ」
アリサさんに手を引かれ、2人ではしゃいでいろんな店を見て回る
「せっかくだし、みんなでお揃いで何か買いたいね」
アリサさんが言う
「そうですね、あ…アリサさん、少しお手洗い行ってもいいですか?」
「あ、うん、私もいく」
2人でお手洗いに行って、個室から出てきてヘアセットが崩れてないか鏡で確認して、表に出る
アリサさんはまだみたいだから、石垣に腰掛けながら待っていると
「ねぇ、君」
突然声をかけられて顔を上げる
そこには知らない若い男性が2人
「え、私?」
「そうそう、友達待ってんの?俺らさっきから見てたけど、凄い美人のハーフの子といたよね?」
「ああ…はぁ」
何やこの人ら
アリサさんのファン?
「君も相当可愛いけど、彼氏とかいんの?」
「えっと…」
現時点では、いる!と断言できずに一瞬口籠る
「ねぇ、俺らと遊ぼうよ?観光客でしょ?東京案内してあげるよ」
「いや、結構です」
石垣から立ち上がって、逃げようとするけど
パシッと手を掴まれる
「離してください」
「何で?いいじゃん、俺らと…
「俺らと…なにかな?」
私を掴んだ男の人の腕をグッと掴んで、黒尾さんが言う
「チッ…なんだよ、彼氏ときてんならハッキリ言えよ」
そう言って2人組は立ち去っていった
「…ありがとうございました」
黒尾さんの後ろ姿にお礼を言う