第1章 出逢い
「わっ!…ちょっ…」
暴れるかもな…とは思ったが、案の定離れようと腕を使い、俺の身体をぐいぐいと押し除けようとしてくる。
「今ここには誰もいない。次の電車まで時間もある。それに、これなら俺も見えない」
だから気にするなと、落ち着かせるようにその背中をとんとんと叩いた。
初めは抵抗しようともがいていたが、暫くすると諦めたのかシュンと大人しくなった。
「泣きたい時は泣けばいい」
俺がそう言うと、その子の身体が小刻みに震え出す。
「…っ…ふっ…」
俺の腕の中で、静かに泣き始めた。
哀しい事があったのだろうか。
耐え切れず、人前で泣いてしまうほどの何かが…
両親と姉の葬儀が終わり、1人残された俺に錆兎は優しくこう言った。
『義勇、もう我慢するな。今は泣いていいんだよ』
その日俺は、親友に背中をさすってもらいながら涙が枯れるまで泣いた。
あの日の錆兎と同じように、俺はその子の背中をさすってやった。
悲しい時、人というのは誰かの温もりが欲しくなるものだ。
何かは分からないが、この子の悲しみが少しでも軽くなればいいと思い、俺は泣き止むまで背中をさすり続けた。
ひとしきり泣いて落ち着いたところで、一旦さっきのベンチまで戻って来た。
俺の後ろを大人しく着いてきた女の子に、「ここで待っていろ」と座るように促すと、その子は素直にコクリと頷きそこへゆっくりと腰を下ろす。
先程とは打って変わって大人しくなってしまった女の子。
…大丈夫だろうか。
物凄く心配ではあるのだが…、さっきあれだけ泣いたのだ。
きっと疲れたんだなと思う事にし、俺はベンチ付近に設置されていた自販機へと足を運ぶ。
大分泣いていたので、水分補給の為と何か飲み物を買おうかと思ったのだが…
好みが分からん。
まぁ何でもいいかと取り敢えず誰でも飲めるミネラルウォーターのボタンをピッと押す。
勢い良くガコンッと滑り落ちて来たそれを取り出すと、大人しく待っている女の子の元へと戻った。