第2章 世界反転
ボコ…。
ふと、泉がいつもより大きな音を立てた。
白哉は視線を月から泉へと向けた。
ボココ…。
中から大きめの空気が浮いてきたのか、泉が音を立てる。
「………?」
白哉は眉を顰めると一歩、泉へと近づいた。
その瞬間。
月明かりに照らされて、泉の中から―…女が現れた。
「……っ!?」
白哉は目を見開いた。
泉から勢いよく上半身が反り返る。
―…まるで人魚のように現れた女は、なぜかひどく神秘的だった。
白哉はあまりの衝撃で言葉を発することができなかった。
伝説ともいわれる泉の中から、人が。
けれど、現れたその人物の上半身がぐらりと揺れたのを見て、咄嗟に白哉は慌てて受け止めた。
パシャ…と水が跳ねた。
「…っ、おい」
白哉は声をかけるが、倒れ込んだ人物は意識を失っていた。
白哉は小さくため息をつくと、白哉は濡れる着物をものともせず、ゆっくりとその人物を泉から出す。
月の光に照らされて、女はまるで幻想のような印象すら感じる。
茶色い髪は濡れ、纏った白い服は女の身体の線をくっきりと浮かび上がらせる。
白哉は視線を女から一瞬泉に向けると、小さなため息と共に女を抱き上げてそのまま屋敷へと向かった。