第9章 生命と選択
「美穂子、調子悪いの?」
乱菊の言葉に、美穂子はぴたりと動きを止めた。
十番隊に来てから、特に具合の悪い様子は見せなかったはずだ。
実際、美穂子の書類の処理スピードはいつもと変わらない。
化粧も少し厚くしていることもあって、顔色にも問題はないはずだ。
「―…そんなこと、ないわ」
「美穂子は嘘が下手ねぇ~、隊長からも言われたのよ。あいつの様子が少しおかしいってね」
「―……これでも一応、見せないようにしていたんだけど」
まさか、二人共にバレていたとは。
本当に乱菊の言うとおり、うそが上手ではないらしい。
美穂子が苦笑を浮かべると、乱菊は持っていた筆をポイッと放り投げて美穂子の腕を取った。
「乱菊さん?」
「ほら、四番隊に行くわよ」
「え”、そ、そこまでひどいわけじゃないし」
「いいから!今のうちに治しちゃえば、後が楽でしょ。朽木隊長にも気づかれないうちに治しちゃいなさい」
バチンッと音がするんじゃないかと思うくらい長い睫を揺らしてウィンクする乱菊に、美穂子は苦笑を浮かべると、小さく笑った。
この人に何を言っても無駄だ。
ならいっそ、さっさと薬でももらって直してしまおう。
「―…わかったわ」
美穂子は乱菊に腕を引かれて、四番隊へと向かった。