第8章 運命の歯車が動き出す
美穂子の検査を十二番隊に依頼して数日後。
隊首会の後、六番隊へ戻ろうとしていた白哉に、十二番隊の隊長である涅マユリが声をかけてきた。
「少しいいカネ」
「―…あぁ」
珍しいことに少し驚きながらも、白哉は美穂子の検査依頼を思い出して足を止めた。
「先日調べた、あの小娘のことだがネ。少々面白いことがわかったんだヨ」
少しニヤニヤしながら、涅は白哉に言う。
それが少しいやな気分になりながらも、白哉はじっと続きの言葉を待った。
「そもそも零体でもない者が、斬魄刀の声を聞くことなどありえないヨ」
「―…ならば、兄は何の声だというのだ」
確かに美穂子は声を夢の中で聞くのだと言う。
それが気のせいとでも言うのだろうか。
「まぁ待ちたまえヨ。―…あの娘が尸魂界に居られる理由こそが、その声なのだろうネ」
「居られる理由…?」
白哉は眉を顰めた。
すると、涅は肩をすくめて見せた。
「いいかい、尸魂界は霊子で構成された世界なのだヨ。そこで生きるためには、霊子で構成された魂という形でなければならない。けれど、あの娘は違う。つまり、なにか別の力が作用してなければ、おかしいのだヨ」
以前、総隊長の命令で美穂子の身体を調べたことがあった。
身体検査の延長のような検査で、美穂子の霊力や霊子構造など幅広く調べたのだ。
その結果、美穂子は霊体ではないことがわかっていた。
けれど、美穂子が何であるかはその場で結論が出なかったのだ。
それが今回の検査でわかったというのだろうか。
「―…そのカラクリが、あの声だというのか。声が聞こえてきたのは最近のことだと美穂子は言っていたが」
もしも、声の主が美穂子の身体に何らかの影響を及ぼしてこの世界にとどまらせているのだとすれば、なぜ今なのだろうか。
もっと前に、美穂子その声の主の夢を見てもおかしくない。