第15章 蓮華
翌日、食事を済ませて診察へと向かうと、桜華の顔色は良くなっていた。
体温も異常はなく、呼吸も安定していて手足も暖かい。
縛られたような跡もない。
それは即ち、まだ、あの後以来何も起きていないということ。
それに安堵し、片づけに部屋に戻り、次の作戦を開始する。
清掃の前の時間に、係の長であるご婦人に声をかける。
「すいません。お願いしたいことがあるのですが…」
「あら…どうしたの?カナエさん」
いつもにこやかなご婦人はわたしにもごく一人の信徒として接してくる。
立ち振る舞いは気を付けていた分、今のところ信徒にわたしを疑う者はおらず、皆が親切にしてくれている。
「あ、あの…医者だけでは暇を持て余しておりまして…。その…もっと教祖様に御奉仕いたしたく、特別清掃員をさせていただきたくお願いに参りました」
ご婦人は少し目を丸くした後、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「まあ、熱心なこと。貴方様のような方がいらっしゃるのは、教祖様もお喜びになりますわ」
ご婦人は快く申し出を受け入れてくれた。
その後の清掃の時間、清掃員たちの間で簡単な説明を受け、わたしは雑巾とバケツを手に、教会の廊下を磨き始めた。他の清掃員たちが和やかに談笑する中、私の心は一点に集中していた。この清掃作業は、教会内部の奥まった部屋を調べるための、絶好の機会だ。
その機会を利用して、その日から桜華さんの体調がおかしいと診療回数をお昼に1回増やしていただき、夜の清掃の後に行われていると判断する。
鬼は太陽を嫌う。
即ち、北側になにかあるはずだ。
そう考えたわたしは、北側の施設の方の掃除の当番の週にかけることにした。
翌日からわたしが北側の施設周辺を掃除する週。
教会の隅々まで清掃をしながら、不自然な場所がないか、特定の部屋から特別な気配がしないか、五感を研ぎ澄ます。
そして、ついにその部屋を見つけることができた。
他の部屋とは違い、その部屋の扉は硬く閉ざされ、鍵がかかっているようだった。扉の前にはここ数日、真新しい花が毎日供えられている。
何かの儀式に使われる部屋だろうか。