第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
「ねぇ、起きたみたいよ」
動揺しながらも、出来るだけ息を殺してじっとしていたのに。
小さな女の子の声が聞こえて、思わずびくっと体が反応する。冷や汗が背中を伝う。
な、なんで起きてるって分かったの。
「知ってる。おい、早く若のとこに連れて行け」
「はぁ!?なんで私が!」
男の声と、それに応える別の若い女の人の声。
あたしはちょっと迷ってから、寝たふりをするのをやめることにした。どうせバレてるんだからこんなところで寝転がってても仕方ない。何かされる前に、今いる状況を確認しておいた方がいい。
意外と冷静に考えながら、むくりと起き上がって声が聞こえてきた方に目を向ける。寝てたからか、ちょっと頭がくらくらした。
ガヤガヤとうるさかった声が一瞬静まる。
「おい、コイツ本当に人間か…?」
「今まで感じたことのない"気"だけど、多分ね」
「ドフィが近くにいるからねぇ〜〜べっへへへ」
大小様々の影がしゃべる。
急に視界に入ってきた光の眩しさに目を細めて、あたしは状況を確認しようと努めた。
あたしがいるのは王宮の広間のようだった。
突き抜けるように高い天井。
目の前に天井に届かんばかりのアーチ型の大きな窓があって、あたしの後ろにはそれよりひと回り小さい、同じくアーチ型の出入り口がぽっかり口を開けている。両サイドにビロードのカーテンが垂れ下がっていた。
アラバスタの時を含めて王宮と呼ばれる建物に入るのはこれで人生二度目(驚くことにね)だけど、アルバーナ宮殿に比べると贅沢の限りを尽くしたような豪華な内装が目立った。
天井から垂れる巨大なシャンデリアはまさにそうだったし、目の前に置かれているテーブルや椅子も見るからに高級そうだ。
今度はさっきから思い思いに口を開いているドンキホーテファミリーに目を移してみた。椅子に座っている者もあれば、立っている者もいる。
逆光のせいで、顔まではよく見えない。
シルエットから辛うじて分かるのは、人数くらいで…多分6…いや、7人?
あたしはそんな彼らから少し離れたところで長椅子に寝転がっていたらしい。ふかふかとした真紅の生地が肌に心地よい。きっとこれも上等な代物なんだろうな…。