第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
「ねぇ、コイツいつまで寝てんの?起こしていい?」
「手荒な真似はするなよ。若に怒られるぞ」
「なんだグラディウス。お前が口を出すとは珍しいな。こーゆーのが好みか?」
「黙れ」
…なんだろう。
この、"すごく目覚めちゃいけない感"は。
今起きると、きっととてつもなく後悔する気がする。
「たしかに可愛いねぇ〜〜。小さい頃のドフィに似てる〜〜べっへへへへ」
「えっうそ!私も若のちっちゃい頃見てみたかったー!」
…ドフィ?若?
どこのどなたか分かんないけど、さらにまずい気がする。
全力で寝たフリ…いや、死んだフリをしよう。
このまま目覚めないぞあたしは。絶対に。
「どうして若さまはローを連れて来なかったのかしらぁ??あたし、殺すならローが良かったのにぃ」
「ハッ。デリンジャー、お前如きじゃ返り討ちに合うだけだ。ローは強いぞ」
ロー、の言葉が聞こえた瞬間、思わず顔をあげそうになる。
ロー?それってつまり、あたしの知ってるトラファルガー・ローのこと?
「──昔、奴に剣術を教えたのはこの俺だからな!!」
ローに剣術を教えた?昔…?
それじゃあまさか、今あたしの近くにいるのって…。この人たちって…。
だんだんと体が強張ってくるのが分かる。
喉はカラカラに乾いていた。
「あんたたちコロシアムはどうしたのよ。そろそろ出番じゃない!?いくら若の妹が珍しいからって、出場しなかったらどうなるか知らないわよ」
「…あと、ついでに言うが、そいつは殺すために連れて来たんじゃない。若が長年探していた女だ。だから俺は手荒な真似はするなと」
いよいよこれは認めないわけにはいかなかった。
『若の妹』があたしを指すんだとしたら、──若はきっとドフラミンゴのことだ。
そして、奴ことを若と呼ぶ人たちなんてそんなの、誰にだって想像がつく。
「早く起きないかしらぁーコイツ!」
「聞けよ」
この人たちは、他でもないドンキホーテ・ファミリーのメンバーで。
「…にしても、王宮に人を呼ぶのは久しぶりだのう」
そしてどうやらあたしは、その本拠地にいるらしいのだった。
事もあろうにローがあれだけ警戒していた奴──ドンキホーテ・ドフラミンゴの根城に。
…本当に、なんであたし、こんなところで寝てんのよ。