第7章 最悪と最善
マリーは救助ボートの位置も把握していた。聞くと一ヶ月前の船の大修理に駆り出された時に、確認しておいたらしい。
ほんと、どこまでもちゃっかりしてて脱帽。
あたしなんて無駄に不審がられて逆ギレしてただけだったのに。
マリーに感心するやら自分に悲しくなるやら複雑な気持ちになっているうちに、着々と脱出の準備は進んでいった。
救命ボートは8人乗りのものが2つあった。
ぎゅうぎゅう詰めで乗り込めば全員乗れそうだ。
海賊たちの目を掻い潜るようにしてボートを移動させ、甲板から降りるための梯子を垂らす。
──またしても爆音がして、船が大きく傾いた。
急がなくては。船の損傷も着々と進んでいるようだった。
海賊たちは海軍の応戦&逃亡に必死であたしたちに気づかないはず。なんて甘い考えをしていたのだけれど。
「おいお前ら!何してるんだ!」
…どうやらそういうわけでもないみたいだった。
声が聞こえて振り向いてみれば、数人の海賊たちがこちらに向かってきていた。皆一様に殺気立って恐ろしい形相をしている。
──まあ、20人くらいの捕虜が甲板を移動してバレない方がおかしいよね。
あたしはどこか他人事みたいに思いながらも、さすがに焦らないわけにはいかなかった。
「まずい、急げ!」
ナーティが切羽詰まった声で人々を急かす。
だけれど、急に早く降りられるわけもない。
他の海賊たちも気付いて集まってくるのが視界の端に見えた。
──まずい、状況。
絶体絶命だ。
ひやりと背中に汗が伝う。
あたしたちにはもう次の手が無いんだから。
このチャンスを逃せばもう逃げられない。
最悪、この船と海賊たちと一緒にお陀仏、よ。
あたしはぎゅっと拳を握りしめた。
こんなところで死ぬなんて、絶対に嫌だ。教会に帰れず、シスターや子供たちにも会えないで、こんなところで死ぬなんて。
気づけば、あたしは2人に向かって叫んでいた。
「ナーティ、マリー。このまま脱出のサポートしてあげて!」
「え、お前は」
「ちょっと時間かせぎしてくる!」
そして言い終わるや否や、地面を蹴って駆け出したのだった。