第15章 生きる意味
【教会】
「(天界にいる頃は神様の加護に守られてたおかげで悪い影響を受けずに済んだけど…下界にきてその加護は消えた。代わりに母様の加護が私を守ってくれているけど…魔族と深く関わったせいで母様の加護も弱まってきてる…)」
ズク…ッ
「っ…胸が、痛い…」
呪いによる胸の痛みが襲い、顔を歪める。
「やっぱり…ライトくんと接し過ぎたせいかな。なんだか息苦しい時もあるし、呪いの進行が速くなってるのかも…」
──天界は神様の故郷と呼ばれている。魔界と違って空気が澄んでおり、神様の加護で護られているおかげで、悪いモノの力を一切寄せ付けない。だから天界で生きる天使達は、平穏に暮らせている。
ただ…天使という種族は高潔な存在の為、滅多に人前に姿は現さない。その理由の一つとして【天界から出てはいけない】という神様が決めた掟を守っているからだ。
だが稀に、外界に興味を持った天使が、掟を破って魔界に降り立ち、姿を見せることがあるらしい。
子供の頃、使用人達が話しているのを聞いたことがある。
魔族に捕まった天使は、全身の血を吸い尽くされ、身体に天使以外の血を取り込んだことで壊れてしまい、二度と天界には帰れないという。
魔族をも虜にしてしまう程の天使の血。その血の味はまるで熟成された甘い果実のようで、強い力を持つ天使ほど極上で、魔界でも高値で売買されていることが多い。
そして中には天使をコレクションにしたがる者や、貴族達の見世物にする者もいる。
「(だから私は魔族であるライトくんが怖い。もし天使だと知られて全身の血を吸い尽くされて、この身体が壊れてしまったら…。)」
魔族に吸い殺されて壊れた母様のようになってしまう──……。
「(母様を殺した犯人は分からない。でも天使の力を以てしても敵わない相手だ。私が探し出せても足元にも及ばないことは知っている。)」
母の形見の銀色の懐中時計を取り出し、蓋を開ける。
「母様…私、独りで頑張れるかな」
裏側には天使族にしか読めない文字が刻まれていて、私はその文字をじっと見つめる。
"いつも貴女の傍に"
「見守ってて母様。必ず呪いは解く。そして絶対に私を愛してくれる人と幸せになってみせるから」
いつの間にか胸の痛みは消えていた。
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