第50章 止まらずに進むセグエンテ【渋谷事変】
伏黒はフェンスから飛び降り、剣を振りかぶる。だが、男は呪力で防御して剣を受け止めた。さらに突き出された小刀を、伏黒は身を反らして躱す。
そこへ、詞織が呪力を滾らせた。
「【強(こわ)き者 赤手によりて 戦はば 弥猛心(やたけごころ)に 我が身も応えん】」
身体強化の効果を持つ詞織の和歌――渾身の一撃。拳を振りかぶる詞織に男がニヤリと口角を上げる。
「うっ……がっ……」
男が突然 呻き、血を吐いた。少し離れた位置から【蝦蟇】が長い舌を伸ばし、男の腹を貫く。【あべこべ】によってダメージが通ったのだ。
そのまま、詞織の打撃がそのまま男の顔に入る。さらに伏黒も拳を打ち出した。
何度も、何度も、何度も何度も畳みかけるようにして拳や蹴りを入れていく。顔面が歪み、血塗れになる中で、男はまた術式を発動させた。
「この程度で調子に乗るなよ、ガキ共――ッ‼」
叫ぶ男に動じることなく、伏黒は拳に呪力を乗せ、「詞織」と呼ぶ。
「【強き者 赤手によりて 戦はば 弥猛心に 我が身も応えん】」
先ほどの身体強化の術が、今度は伏黒に掛けられた。
伏黒は勢いを殺すことなく距離を一気に詰め、男の顔前に拳を据える。
寸止めした拳がコツンッと男の頬に当たった――瞬間、勢いを殺した伏黒の右ストレートが決まった。男はガードレールの向こう側に吹き飛び、意識を飛ばす。
「メグ、上手」
「そっか?」
ほんの微かに口角を上げて笑む詞織に喜びが募った。
いやいや、ときめいている場合じゃないな。
気を失った男に手を伸ばそうとする詞織の手を掴む。
「やめろ、俺がやる」
軽々しく男の身体に触るな。
キョトンとする詞織の額をピシッと弾くと、伏黒は真希に勧められた虎杖と同じワイヤーで男の身体を縛り上げる。
そして、腹巻の中から【帳】の基を見つけて破壊した。
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