第50章 止まらずに進むセグエンテ【渋谷事変】
「メグ、あれ……頭の……」
詞織に言われて視線を向け、目を丸くする。先ほど伏黒が剣の柄で殴りつけたところが痣になっていたのだ。
「来るぞ!」
伏黒は手を組み合わせる。
「――【脱兎】」
伏黒の影が長く伸び、そこから道を覆うほどの大量の兎が飛び出した。撹乱するために呼び出した【脱兎】たちが男に飛び掛かり、体当たりをする。
「ツッ……」
少しよろめいた男に確信めいたものを感じながら、伏黒は「一旦 退(さが)るぞ」と【脱兎】のうちの一匹(撹乱に混ざらず詞織に飛びついた)を腕に抱く詞織を両手で抱き上げた。
「ヤツの術式が分かった」
「ん、わたしも分かった」
【脱兎】に囲まれて動けない男を置き、伏黒は距離を取り、伏黒は詞織を地面に下ろす。
「ヤツの術式は――……」
「「【あべこべ】」」
「……――だよね」
伏黒と詞織の声が揃った。まだ推測の域はでないが、十中八九 間違いないだろう。
まともに攻撃するより、タイミングを外された自分の打撃や攻撃用じゃない【脱兎】が当たった方が効いていた。
それに、【脱兎】に囲まれた今もすぐに出てこようとしない。四十一階から落下してピンピンしているのもそういうことなのだろう。
「弱い攻撃の方が効く。でも、弱すぎてもダメ。それでいけるなら、術式発動中は空気抵抗とかの微弱な力で自滅するはず。でも、あの人はそうじゃない」
「だな。【あべこべ】にできる上限と下限がある。攻撃に合わせて調整して、術式効果や斬撃なんかは【あべこべ】にした上で呪力で守ってるんだろ」
だから、規格外の五条には勝てないし、毒を使う順平のような複雑な術式とは相性が悪い。