第50章 止まらずに進むセグエンテ【渋谷事変】
「詞織!」
とっさに【蝦蟇】を呼び出した。追撃しようとした男を【蝦蟇】の長い舌が捉え、歩道橋までぶん投げる。
「詞織! 無事か⁉」
「ヘーキ。このくらい何ともない」
詞織に駆け寄ると、詞織が服の砂埃を払って立ち上がった。確かに、大きな怪我にはなっていないようだと、伏黒はホッと胸を撫で下ろす。
「元気 元気。将来 有望。殺り甲斐がある」
あれだけの攻撃でダメージが通っている様子がない。
「【玉犬】の爪は特級にも効く」
「わたしの術式は、和歌より歌の方がずっと威力が高い」
そうだな、と内心で頷く。
術式は秘匿するもの。たとえ仲間でも、身内でも。
だが、詞織は伏黒に術式を明かしており、伏黒も“奥の手”であるたった一つを除いて詞織に明かしている。
特級にもダメージを与える【玉犬】の爪、高火力で生み出された光の弾丸。
なのに なぜ――男にダメージがないんだ。
だからといって、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
伏黒と詞織はそれぞれ剣や短剣で斬りかかり、攻撃を続けた。タイミングを見て退いた詞織の歌が響き、炎や稲妻が男を襲う。
「鬱陶しいのぅ!」
詞織との距離を詰め、男が蹴りを入れる。
「このっ!」
伏黒が男の横っ面に剣の柄を叩きつけようとするが、男はぐるんっと体勢を変えた。打撃が男の側頭部を掠めるのと同時に、男は伏黒を殴りつける。
ニヤリと歯を見せて笑う男に思わず舌打ちが出た。