第48章 混乱極まるラプソディ【渋谷事変】
一か八か、0.2秒の【領域展開】。
この0.2秒という時間に具体的な根拠はない。
この時間なら非術師が巻き込まれても廃人にならないと五条が勘で設定した。
それでも、改造人間を含めた非術師の脳には、時間にして約半年分の情報量が流し込まれ、全員が立ったまま気絶する。
しかし、この場で生き残った非術師たちは、二ヶ月後に全員が社会復帰を果たした。
逆に言えば、そのレベルの【領域展開】。
特級呪霊は今 この瞬間にも目を覚ますかもしれない。
それならば、カウンターを考慮し、狙うのは改造人間。
殴り、蹴り上げ、貫き、頭を潰し――五条は無心で改造人間を殺していく。
――現代最強の呪術師は、副都心線 地下五階に放たれた改造人間およそ一〇〇〇体を、領域解除後 二九九秒で鏖殺(おうさつ)した。
さすがに疲労を感じ始めたところで、目の前に呪符でぐるぐる巻きにされた、立方体のキューブが転がってくる。
「――【獄門疆(ごくもんきょう)】……開門」
突然 現れたキューブに目を奪われた。ピシッと亀裂が入り、開いた箱から気味の悪い生物的な“何か”が現れる。
血走ったような一つ目をギョロつかせてこちらを凝視してきた。大きな瞳にこちらの姿が映っているのがよく見える。
「や、悟」
得体が知れないソレから身を引こうとして、背後からもう二度と聞くはずのない声に名前を呼ばれた。
「は?」
「久しいね」
振り返れば、袈裟姿の親友――夏油 傑が微笑を浮かべている。
違う。アイツは去年、自分が殺した。
【六眼】がはっきりと“男”を捉える。
偽物? 変身の術式?
それら全ての可能性を、【六眼】が否定する。
本物……!
そして、五条 悟の脳内に溢れ出す、三年間の青い春――……。