第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
【1年後――2007年 8月】
太陽の陽射しが大地を熱するほど、暑い夏がやって来た。
そんな中、星也は高専のグラウンドで、五条に向けて霊符を構える。隣では夏油が消しゴム、家入がペンを持っていた。
「いっくよー」
家入の号令を合図に、星也は霊符に【武甕槌(たけみかづち)】の神雷を降ろす。同時に夏油と家入はそれぞれ持っていた消しゴムとペンを五条へ投げた。
五条へ向かってペンが、消しゴムが、神雷を纏った霊符が勢いよく飛んだ。
そして、ペンはビタッと止まり、神雷は弾かれ、消しゴムだけが五条の額にコツンと当たる。
「うん、いけるね」
五条は消しゴムをキャッチし、停止したペンを手に取った。ちなみに、星也の霊符は効果を失って消えている。
「げ、何 今の」
「術式対象の自動選択か?」
家入と夏油の言葉に、五条は「そ」と頷き、軽い足取りでこちらへやって来た。
「正確に言うと、術式対象は俺だけど……今までマニュアルでやってたのをオートマにした」
呪力の強弱だけじゃなく、質量・速度・形状からも物体の危険度を選別できる。今はまだできないが、いずれは毒物も選別できるようにするらしい。
「これなら最小限で【無下限呪術】を“ほぼ”出しっぱにできる」
「出しっぱって……無茶ですよ、そんなの」
「星也の言う通り。アンタの脳が耐えきれない。すぐ焼き切れるよ」
呆れたように言う星也と家入に、五条は「大丈夫」と続けた。
「自己補完の範疇で【反転術式】も回し続ける。いつでも新鮮な脳をお届けだ」
「どうなってるんですか、あなたは」
凄すぎて、尊敬を通り越してドン引きである。そんな星也の頭を、五条は乱暴にかき混ぜた。