第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「コイツら、殺すか? 今の俺なら、多分 何も感じない」
コイツら、が誰を指しているのか、一瞬 分からなかった。
遅れて、【星漿体】である理子の死に笑みを浮かべて拍手を続ける信者たちだと理解する。
どうして 人の死を前にこんなに喜べるのだと憤りを覚えているのは確かだ。星也自身、すぐにでも「拍手を止めろ」「笑うのを止めろ」と怒鳴りつけてやりたいと感じている。
だが、五条はどうだ。彼の言う通り、空色の【六眼】は感情を湛えることなく、ただ静かに瞬いていた。
声音も淡々としており、怒りも憎悪も、悲しみすら感じられない。いや、そういった感情を通り越して、逆に頭や心が冷え切ってしまったのか……?
「五条さん……」
何を言おうと思ったのかも、自分で分からなかった。ただ戸惑いで上げた言葉を、夏油がやんわり制してくる。
「いい。意味がない。見たところ、ここには一般教徒しかいない。呪術界を知る主犯の人間は逃げた後だろう」
夏油の言う通り、信者たちを殺したところで、何一つ変わることはない。
懸賞金と違って、もうこの状況は言い逃れできないのだ。元々 問題のあった団体で、じきに解体される。
ならば、わざわざ手を汚す必要はない。
「意味、ね……それ、本当に必要か?」
「大事なことだ。特に術師にはな」
夏油の言葉は、確かに星也の胸に響いた。
意味があるのか、ないのか。
必要なことか、必要じゃないか。
得になるか、損になるか。
そんな様々な線引き。
自分たちには力がある。人を守ることも、殺すことも容易くできてしまう。
だから、考えなければならない。
人々と――この世界を守るために。
たとえそれが、人の死を前に笑顔を浮かべる者たちであっても……。
* * *